3日目、呼子
「…イ…ュィ……」
どこからともなく声がする
「…ユイ!」
「ん…zzz」
ぼんやり開いた目
飛び込んでくる光が眩しくて
またギュッと目をつむる
「お目覚めですか」
何怒ってんの?
これは普段通りの仏頂面ではなく、怒ってる仏頂面。
パンピーにはわからないと思うけど。
「一之瀬さん…」
手を伸ばすと身をかがめたから、その首に抱きつく。
抱っこで起こしてほしい。
「準備しろよ、朝ごはん食わなくていいの?」
は?
朝ごはん?
ちゃんと目を開け、周りを確認。
「うん、朝だね」
「お猪口4杯で潰れるな!」
日本酒にはめっぽう弱かった。
「自分たちが飲ませたんじゃん」
「そんなに弱いと思わないだろ
普段水のように酒飲むくせに」
時間ギリギリまで寝かせてくれたんだ。
一之瀬さんは着替えも済んで、よく見ると部屋の中もすぐ出れるように片付いていた。
「誘ってんの?」
「何が?」
「そんなはだけて跨るとか」
浴衣で綺麗に眠れる人なんてきっと存在しない。
磯野さんちのフネさんくらい。
そしてスイッチ入れてしまったよね。
だって昨日アレ買ったくらいだよ?
イチャラブお風呂も出来なかったし。
「ちょ、待って!」
「待たない、無理」
浴衣は簡単に肩から落ち
はだけ放題の裾から
容赦なくその手は侵入し
朝っぱらからあらぬ声
朝っぱらからあらぬ音
日の光のさす大きな窓の外は綺麗な日本庭園
さすがに私も我慢限界
「浴衣エロすぎ」
「も…無理…手っ取り早く…して」
「マジお前腹立つな」
は?
「昨日の夜それやって欲しかった…」
落胆したスナイパーは、私の浴衣の襟を戻し膝の上から下ろした。
「着替えろ…
もう時間…7時半に集合だ」
時計の針は7:25
いい雰囲気を中途半端に没収された。
昨日買ったアレは
開封されることもなく
三日目スターーート!
『皆さま左手、小高い丘の上に見えますのが
唐津城でございます。
慶長13年、唐津藩12万石の大名
寺沢広高により建立され…』
ガイドは都築ユイ
ドライバーは越智さん
「藤の季節に行きたいわね〜」
「嫌だ」
「なんで?綺麗なんだよね?唐津城の藤」
「ブンブン飛んでる蜂が怖い」
「だからあれは刺さないんだって」
※メスは刺すらしいけどオスは針がないとか。
基本的に温厚で人間に関心を示さず
手乗りクマバチもいるくらい。
ググってみて。
妙に可愛いから。
でもさすがに巣を荒らしたり
喧嘩売れば刺しにかかってきます。
「春は唐津に当たりませんように」
「満開の時に見に行こうぜ」
「休めるわけないじゃん藤が満開の季節に」
そんな唐津城を通過し、到着したのは
「「「さっむーーーーー!」」」
冬の海風直撃な波戸岬。
「ユイ早くガイド!」
「あっちの小屋でつぼ焼き食おうぜ!」
『玄海こくてーこーえんに指定され!』
「ギャーーー寒い!」
「早く写真撮って戻ろ!」
※2月です
お昼ご飯に時間が早かったら寄った波戸岬。
いい雰囲気の高級旅館を出たあとは、なぜか2人が懇願した吉野ヶ里遺跡に寄り、それからのここ。
「あーー寒かった」
「久々に強風叩きつけられた」
「海中展望は?」←越智さん
「スパーマツヨシの魚屋行きな」
「見たかったな…」
「マツヨシ凄いよね!
いけすに魚いっぱいいるもん!」
車に乗り込み、なかなか出発しない。
みんなスマホしてたり
ナビのテレビ見てたり
だらだら休憩の時間合わせ。
「ねぇ、路線の時間合わせってこんな感じ?」
「スマホは出来ないからただひたすら外みてる」
「対向車のカップルを脳内アテレコしたり」
玄界灘の白波をぼんやり眺め、窓もドアも閉まっているはずなのに
「ええ匂いする」
「腹減った」
「浩介、テンボスまでジャンケンしようぜ」
「松コースだよね
うわー飲みたいな!」
「あ!私してあげよっか!」
「「……」」
イカ懐石と私の運転とこの先の道のりを天秤にかける2人。
「伊万里に抜けて下道?」
「有料乗る?」
「まぁ大丈夫じゃない?」
待って、でもイカだよね。
刺身に天ぷらにシュウマイにデザートは何?伊万里梨?
当然飲む先輩は運転する気なし。
「あ、私呼子のイカまで運転してあげよっか?」
「なんたる無意味」
「そこまではどうでもいい」
呼子でイカで飲んで車でコロコロしながらテンボス到着。
うわー!やっぱ飲みたい!
「よし、テンボスまで運転しろ」
あーーしまった!
「はい、呼子まで練習」
「はい…」
てことで
「ハンドルを握りますのは都築ドライバー
ガイドは一之瀬悠二でございます」
「喋ってないで左右確認」
「オイヒダリ」
「今の誰の真似?」
「加藤さん」
「あぁ、言う言う」
「ヒダリオーラーイ」←女声色
車は呼子のイカに向けて出発!
まぁね
何車線もある大通りもなければ、右折矢印信号が出るような大きな交差点もない。
ただ一本道の田舎道。
「さ、越智くんイカ釣ってきて」
「俺ホタルで
酢味噌で食いてえ」
「私背中硬いやつね」
「私ダイオー!」
そんな冗談を言いながら車を降り、予約していたお店へ。
海が一望できる個室。
平日だからなのか人も少なくのんびり食べられそうな雰囲気…
「とりあえず生を3杯とウーロン茶」
う…
「ユイちゃんホントに大丈夫?
テンボスまで一人で運転できる?」
道のりはわかるの。
こういうコースはよくある。
「お待たせしました〜」
ジョッキが3つ、ウーロンのグラスが1つテーブルに置かれた。
「大丈夫!みんな飲んでいいよ〜」
ゴクゴクゴク
「あーー!美味い!」
何のためらいもない龍子さんがジョッキをドン!
「飲むよ?いい?」
心配性な越智さん。
「いいって」
遠慮がちに口を付けた。
「お刺身からお持ちしました〜!」
立派なお刺身登場。
おばさん二人がそれをテーブルに置くと
「あ、すみません」
一之瀬さんが声をかけた。
追加注文?先にお米?
「ウーロン茶もう1つください」
え?
「りゅうぴょんどうぞ」
ジョッキの生ビールを龍子さんの前に置いた。
「明日は俺飲むから」
越智さんが笑う。
「オッケー」
「やっさし〜ヒューヒュー」
「古いな」
「うるさい」
顔が笑っちゃう。
こんなご馳走、飲みたいくせに。
優しいんだから。
「あーー…お刺身美味い…」
唸るほどの美味。
「このあとげそ天もあるよね」
「あら汁ヤバいうまい」
「……」
「ユイちゃんどうかした?」
一之瀬さんが飲まないなら私飲んでもいいよね?
なんて言えない…
「なんでもない!うわー美味しいなー」
呼子を堪能。
干物の冷凍を自宅に日付指定で送り、呼子名物のくるくる回るイカの動画をつっちたちとのグループラインに送った。
『今更こんなの見せられてもね』
『だからどうした』
『通常の呼子だな』
特に感動もされない。
そしてハウステンボスへ向かう2時間弱、前半は私が運転した。
「そこ右な」
「わかってるし」
「ほら右折出せ」
「わかってる」
「馬鹿!対向車来てんだろ!」
「JAF入っとくんだった〜!」
「ナンマイダブナンマイダブ…!」
途中トイレ休憩の後は一之瀬さんが変わってくれた。
「腹たつな、いい思いばっかしやがって」
バックミラーを見てぼやく。
後部座席を振り向くと、二人は寄りかかりあって寝息を立てていた。
「じゃあ一之瀬さんもいい思いしていいよ」
「は?」
手のひらを向け差し出すと、フンっと鼻で笑い手を繋いだ。
繋いだ手は一之瀬さんの足の上。
体がそっちに傾く。
「いい思いは夜させて貰おうか」
「ようこそユイランドへ」←如何わしいお店
「フリータイムやりたい放題コースで」
「かしこまりました〜30万円で〜す」
「お前…」
「カード不可!現金一括のみです!」
「身の程を知れ」
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