2日目、キャナルシティ
「何食べてんのよあんたら」
フードコートでたこ焼きタイムだった。
「ご褒美だから許してやって」
「はあ?ご褒美?」
「ユイちゃんどうした?泣いた?」
「迷子」
「そっかそっか
迷子になっちゃったのか~」
「あ、ラーメン屋あるじゃない」
フードコートには沢山のお店。
人もいっぱいだけどなんとか確保した4人席。
「もういいやここで
越智くん、私すき家」
「ラーメンじゃなかったの?」
「んじゃ俺うどんにしよ」
「私も!肉うどんがいい!」
旅行に来てこれ。
昨日の夜はコンビニご飯で今日の昼はイオンのフードコート。
言っときますが旅行中です。
「うま」
「越智さんのカレー美味しそう」
「なんかあれだな」
一之瀬さんが最後の一粒のたこ焼きを口に放り込み
核心をつく。
「結局こういうのが食いたい
ご当地食に飽きた職業病だな」
北海道に行ってたら、いくら昼ごはんでもイオンのフードコートで食べない。
海鮮食べるしトウモロコシ食べるし豚丼食べるし札幌ラーメン食べると思う。
とは言え美味しかった肉うどんとたこ焼き
「さ、行きましょう」
食器を返し店内を駐車場に向かいながら、探さずにいられなかった。
許せないのに。
お母さんと呼べなくても
その姿を。
「ユイ」
一之瀬さんが手を繋ぐ。
「また会える」
「うん」
「俺が運転かよ」
越智さんカレーがスパイシー過ぎてお腹が痛い。
「じゃあ私するよ?
八幡から乗ればいい?」
「いい」
「そんで太宰府から都市高速入って」
「福岡から」
「あそっか
オッケーわかった!」
「わかったじゃねぇし
大都市であんな運転、テロリストか」
ヒドい言われよう。
「お客さんシートベルトして下さいよ~」
一之瀬さんがチラリとミラーで後ろの2人を見る。
だからそれにつられるように後ろを振り向いてしまった。
膝枕だった。
「え、そんなに?」
「キャナル着いたら胃薬買う」
「そんなに龍子さんのこと好きなの?」
「うん」
はいはい
「胃が痛い時は
右を下にした方がいいらしいよ」
「そうなの?」
「エチケット袋あげましょうか?」
「いくらエチケット袋でも俺の車で吐くな」
「吐くと言えばさ~」
「胃がムカムカするのに吐く話とか」
思い出し笑い話かと思ったのに。
「愛ちゃんどうしてるだろうね」
あの修旅は忘れられない。
「私にヒドいこと言ったよね」
「え?あぁ家に来るなって言ったやつ?」
「酷いよね、彼氏に内緒でそんな事してたなんて」
胃が痛い元彼が聞いてた。
キャナルでは別行動だった。
男子チーム女子チームでもなく
個々
「お似合いです~
グレーなので何にでも合いますし」
「ですよね~」
全然予定になかったリュック。
「あのスカートも可愛い~」
「そうなんです!
これにこのピーコートで
そんでそれ背負ったらヤバイですよ!」
「ホント可愛い!」
「中はなんでも…例えばこのトレーナーでも
こっちのシンプルなニットでも」
なんて商売上手なんだ。
「あざーす!」
全部買ってしまった。
いくらセールとはいえ。
いいの
頑張ったんだもん。
秋のシーズンの給料凄かったんだから。
驚愕の勤務日数
驚愕の残業代
驚愕の距離手当
プラス冬の賞与
給料明細しばらく飾ったもん。
経営者一之瀬さんは『それ労働局に持ち込むなよ』って笑った。
だけどそんな億万長者もほんのふた月で、ヒマな今は激減する。
だから蟻は頑張って働くの。
財布が凍える季節のために。
「あ、ユイちゃん」
スポーツショップの袋提げた越智さんに会った。
「えらい買ったね」
「あとは春物欲しい」
「悠二さっき高そうなオーダースーツのお店で
店員さんに捕まってたよ」
「助けてくれなかったの?
スーツはこの前イオンで買ってたよ」
「俺も一緒に捕まっちゃうもん。
断れないタイプだから」
その店員さんハートが鋼だ。
あの見た目をよく捕まえたね。
「あ!あそこタイムセール始まった!
ちょっと戦ってくるね!」
少し先のお店で可愛い店員さんが「お時間限定で~」言ってる。
30%オフの看板持って。
「助けに行かないんだ」
「龍子さんに助けてもらっててね~」
「はーい
あ、荷物持ってるよ貸して」
タイムセールで春物のシャツとスキニーのデニムを買い、雑貨屋さんで小鍋を買い、カルディでコーヒーを買い
「あ」
ここだ
高そうなオーダースーツのお店。
そこに一之瀬さんはいなかった。
龍子さんが助けに行ってくれたのか、それとも自分で切り抜けたか、何か買わされて解放されたか。
何か欲しかったのかな。
ついついその高級な敷地に足を踏み込んでしまった。
「いらっしゃいませ」
ネクタイはこの前要らないって買わなかったし、何見たのかな。
「何かお探しですか?」
「さっき仏頂面の人来ましたよね?」
「あ…えっと」
「何か買いましたか?」
「いえ何も…あ」
「いいんですよ誰が見ても仏頂面だから」
あ、名刺入れだ。
使ってたやつコーヒー落として水玉付いてたんだっけ。
「すみません、これ下さい」
「39800でこざいまーす」
はっ?!高級?!
本当に最後の最後まで個別のガチなショッピングだった。
「2人とも早かったね」
集合場所のベンチでスマホな2人。
「何してんの?」
「レイドバトル」
またポケモン捕まえてた。
「龍子さんは?」
「もう来るだろ」
「悠二もう一戦いっとく?」
「だな、誰か強いやつ参加してこいよな~」
「じゃあ私してあげる!」
「お前じゃな…」
「弱い…」
一之瀬さんはさっきのスーツ屋さんの袋は持ってなかった。
「それ何買ったの?」
「パンツ」
「キャナルまで来てパンツって」
「ズボン、パンツはしまむらでいい」
「そっちは?」
目線はスマホから離れられないらしく、小さな紙袋を持った手だけがこっちに伸びた。
「何?」
「チェーン」
「え、チェーン?」
「変えたいって言ってたじゃん」
目線はレイドバトル
「レベル50来た!」
「っしゃー!」
↑人任せな2人
小さな箱に入ってたのは線みたいに華奢なネックレス。
チェーンのみが売ってなかったのか
これが可愛かったからなのか
先端には緑のガラス玉
クリスマスにもらった指輪と同じやつ
これは5月生まれの石なの
「一之瀬さん、はいプレゼント」
オシャレに包装してくれた箱を、バトル中のスマホの上に置くと一之瀬さんは顔をあげた。
「お待たせ~
ユイ、ちゃんとトイレ行ってきたでしょうね」
「行きました~」
「あ、また越智くんはポケモンやってる」
「もう終わるもう終わる」
「ちょ、イッチーは何やってるのよ
もう開けてんの?せめて車まで待ちなよ」
「龍ぴょん、いいからいいから」
「ユイ…」
「どう?カッコよくない?」
「欲しいなって思ったんだ」
「よかった~」
あ、喜んでる。
「なになに?
目でいちゃこいてんの?」
「龍ぴょんあれだよ、賢者の贈り物
髪を売って鎖を買った奥さんと
時計を売って櫛を買った旦那さんの話」
「あぁね」
「消費したのはボーナスだろうけど」
「それだとただのプレゼント交換じゃない」
「そっか」
「越智くんほら行くわよ気が利かないわね」
「え…ちょっ待ってレイドが…!」
「私も櫛ほしいな~」
2人は気を利かせて行ってしまった。
「なんかくっつきたくなった」
「はいどうぞ」
一之瀬さんは手を出す。
「ギューがいいな」
「ここですると思って言ってんのか」
「思ってないけど~」
「んじゃ夜な」
夜?
「思う存分可愛がりたい、あれ買って行くぞ」コソコソ
え…
「えぇ?!」
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