日吉丸、目覚めるってよ
「ぅ.......」
ツクヨミさんや日吉丸くんとの出会いから数分後、重い瞼をゆっくりと開ける俺。
そして、俺が完全に瞼を開けると....そこには歴史ドラマに出てきそうな風景が広がっていた。
....俺、本当に転生したんだ。
この時代に、戦国と呼ばれる時代に。
なんてことを思いながら、どこかの家の床の上から体を起こすと
「日吉丸!!」
その場に日吉丸くんのお母さんらしき人物が現れたかと思えば、俺をギュッと抱きしめた。
この人達が後の大政所、確か本名は仲....だっけ?なんか優しそうな人だな。
それに、何だかあの時の光と同じようにポカポカするように感覚になるのはなんでだろう?
これが母親の愛ってやつなのか?
「あぁ、良かった....!!」
「お、おっかぁ.......」
涙を流しつつ、俺が目覚めたことに安堵した様子でそう言う仲さんに対して、この肉体に残っていた日和丸くんの記憶を頼りにそう言う俺。
.....そういえば、豊臣秀吉って仲さんのことを親としてとても敬愛していて、仲さんが亡くなった時は卒倒したような?
確かに、こんなにも優しい人だったらああなるのも無理はないよな。
「日和丸、怪我は!?頭は!?腹は痛くないかい!?」
「う、うん。どこも痛くないよ」
俺がそう言うと、ホッとした顔になる仲さん。
その顔には本気で俺を心配しているような表情が写っていたので、そんな仲さんを見た俺が何故だかよく分からないものの、両目からポロポロと涙を流していた。
「....日和丸?」
「おっかぁ....心配をかけてごめんなさい」
仲さんに向け、謎空間で出会った日吉丸くんの分まで大粒の涙を流しながらそう謝る俺。
涙ながらにそう言うと俺のその言葉に対し、仲さんはそれは違うと言わんばかりにフルフルと顔を横に振った後、俺の肩に手を置くとこう言った。
「ううん、これはお前が謝ることじゃないのよ。あの時はたまたまお天道様が機嫌が悪かっただけ、だからお前は悪くないの」
「おっかぁ.......」
....そっか、そうだよな。
まさか、仲さんも自分の息子の死因がギリシャ神話の最高神夫妻の夫婦喧嘩が原因だなんて知らないもんな。
というか、そもそも国違いの神様だしな。
てか、今は仏教全盛期だもんな。
そんなことを心の中でボヤいていた時、その場にやって来たのは.....俺よりも年下の男の子だった。
この子は.....まさか!?豊臣秀長か!?
つーか、何か可愛いなオイ。
「兄ちゃん....!!」
「小竹....」
俺がそう思っていた瞬間、今度は豊臣秀長こと小竹くんは俺を抱きしめていた。
何で抱きしめたんだろう?と思って日吉丸くんの肉体の記録を辿ったところ、何と日吉丸くんは小竹くんの目の前で落雷に遭ったのを目撃したらしい。
なるほど、だから俺の抱きしめたのか。
ん?ちょっと待てよ?
.....今思ったけど、今の仲さんと小竹くんって俺に対する感情激重じゃね?
「良かった、良かったよぉ.......」
「あ、うん、何とかね」
小竹くんの言葉に対し、苦笑いしながらそう答える俺。
うん、君やっぱり劇重感情を抱いているよね?
結構....というか、大分曇ってるよね?
「小竹、心配かけてごめんな」
「ううん、兄ちゃんが無事ならそれで良いよ」
俺が無事なことに対し、ニパッと笑顔を見せながらそう言う小竹くん。
か、可愛すぎるだろぉ!!
何てことを思いながら、小竹くんと仲さんを見る俺。
.....この二人のためにも、例え乱世の時代だろうが何だろうが精一杯生きてやる。
それが俺が、柴崎光が亡くなった日吉丸くんのためにこの時代に転生した意味だからな。
「とにかく、日吉丸が無事で良かったわ.......」
「兄ちゃん、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ!!」
そう言った後、腕をブンブンと動かす俺。
その俺の姿を見た二人はホッとしたような顔になった後、俺を再び抱きしめた。
豊臣秀吉って幼少期の記録とかがよく分からない節があったけど、こんなにも暖かな家で暮らしていたなんて....知らなかったな。
それに....日吉丸くんの記憶を見た限りだと、父親である弥助さんはもう既に亡くなっているっぽいし、そこは史実通りなのか。
う〜む、やっぱり歴史って実際にその目で見てみないと分からないもんだな。
「きっと、おっとぉが兄ちゃんを助けてくれたんだよ!!」
「えぇ、そうかもしれないわね」
小竹くんに対し、微笑みながらそう言葉を交わす仲さん。
この様子だと、仲さんは再婚してなさそうな様子だな。
....あの時、弥助さんが亡くなった時のように自分の子供が亡くなるかもしれなかったからこそ、仲さんは俺が目覚めた時にあんなにも嬉しそうにしていたのか。
まぁ、今の時代は子供が死ぬ確率が異常に高いからなぁ。
ある程度この環境に慣れてきたら、今後のことを考えないとな。
そんなことを脳内で考えながら、仲さんと小竹くんの方を見る俺。
「とにかく、日吉丸が目を覚まして良かった.......」
「俺もおっかぁの顔がまた見れて良かった!!」
俺がそう言うと、あらあらという顔になる仲さん。
その言葉に対し、僕も〜!!という顔になりながらギュッと俺を抱きしめる小竹くん。
oh....やっぱり弟は可愛いぜ。
それに、俺のことを本気で心配してくれる仲さんと小竹くんを見る度に、俺が本当に日吉丸くんという存在に転生したことを自覚していき、改めて日吉丸くんの分まで生きる覚悟を胸の内で決めたのだった。
「....おっかぁ」
「ん?どうかしたの?」
「俺、いつか一生懸命働いて....おっかぁや小竹が美味しいご飯を食べられるようにしたい!!」
仲さんに向け、覚悟を決めた様子の俺がそう言うと....当の仲さんは一瞬キョトンとした顔になった後、すぐにその言葉の意味を理解したようで、俺に対してフッと笑って優しく頭を撫でた後にこう言った。
「まぁ!!それはとっても頼もしいわね」
俺の言葉を聞き、頼もしいお兄ちゃんだと言わんばかりにそう言う仲さん。
その顔には、息子である俺が成長してきたことを嬉しく感じる反面、どこか寂しげな表情を浮かべていた。
「僕も大きくなったら兄ちゃんを手伝う!!」
「おっ!!そいつは兄ちゃんも嬉しいな」
小竹くんは小竹くんは弟として純粋に手伝おうと思ったようで、ピョンピョンと飛び跳ねながらそんなことを言ったため、俺と仲さんは微笑ましい空気に包まれていた。
....弟が居るって良いなぁ
そんなわけで、この時代にて日吉丸くんの家族である仲さんや小竹くんと共に一日を過ごし、そのまま初日を終えていった俺はこの時代の夜空を眺めながらこう思った。
日吉丸くんの分まで、頑張って抗って生きてやる....と。
「日吉丸〜、そろそろ寝るわよ〜」
「は〜い」
こうして、戦国時代での日吉丸としての日々の始まりである初日を過ごした俺は、自宅にて瞼を閉じたのだが、その時の脳裏に俺の生きた時代に転生して楽しげな様子の日吉丸くんが浮かんだため、微笑みながら眠りに着いたのだった。
日吉丸、大商人になるってよ @marumarumarumori
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