日吉丸、大商人になるってよ
@marumarumarumori
現代人、転生するってよ
俺は自他共に認める歴史好きだ。
まぁ、主に歴史好きだった爺ちゃんの影響だけど.....それでも歴史が好きなことには変わりはない。
暇さえあればネットで歴史小説を漁るように読み、暇さえあれば歴史ドラマを観る。
それが俺の日常だった。
だからなのかは分からないが....今現在の俺は真っ白な空間にいた。
そう、俺はもう既に死んでいるのだ。
死因は言わずもがな交通事故。
と言っても、完全にあったの不注意だけどな。
そして、その空間にはジャージ服姿の20代の男性と恐らくは14歳ぐらいの少年が居たのだが....その少年はいわゆる戦国時代の住人と言っても過言ではない姿をしていたので、俺は思わず目を見開いていた。
つーか、あのジャージ服姿の男は誰なんだ?
てか、めちゃくちゃイケメンだなオイ
「初めまして、君は確か.....柴崎光くん、だったね?」
「あ、はい。そうですけど.......」
俺がそう言うとジャージ服姿の男はニコッ優しい笑顔を浮かべた後、こう言った。
「僕の名前はツクヨミノミコト。一応黄泉の国を管理している神様さ」
そう言った後、ツクヨミを名乗る男はどこからか出てきた湯呑みの中に入ったお茶を飲んでいた。
ついでに言えば、隣にいる少年に美味しそうな大福を渡していて、その大福を見た少年は目を輝かせながらその大福を食べていた。
「ツクヨミ様!!これ、とっても美味いですね!!」
「それなら良かったよ」
キラキラとした目で大福を食べる少年に対し、そう言うツクヨミ。
へぇ、ツクヨミ....って、ツクヨミぃ!?
ツクヨミって日本神話の神じゃねぇか!?
てか、何でまたそんな存在が俺の目の前にいるんだ!?
あと、何故にジャージ服!?
「君も分かってると思うけど、今この場に僕が居るってことは柴崎光という人間はもう既に死んでいるんだ。僕自身の手で蘇らせるには不可能な程に」
ツクヨミさんですら蘇らせるには不可能な程って.....ま、まさか!?
アレか!?アレなのか!?
「あの....もしかして、もう既に火葬されたんですか!?」
「うん、そうだよ」
嘘だろオイ!?
俺が死んでからもうそんなに時間が経ってたのかよ!?
いやまぁ、確かに火葬されたら復活もクソもないけども!!
ゾンビもクソもないけども!!
そんな風にショックを受けている俺を尻目に、当のツクヨミさんは大福を食べ終わった少年に対してお茶入りの湯呑みを手渡していた。
....モノホンのツクヨミさんって想像以上にマイペースだなぁ。
「ちなみに....僕は好きでこの格好をしてるだけだからね。何だったら、和服よりかはこっちの方が好きだからね」
あ、やっぱバレてたのね。
そりゃまぁ、神の前で隠し事は出来ないって言うし.....仕方ないな。
でも、目の前にいるジャージ服姿でふて寝してる男を見たら誰だって神様だと思わないって。
それに....あの少年は一体何者なんだ?
少なくとも、俺の生きてる時代の人間じゃなさそうだし....まさかとは思うが、過去の時代の人間なのか?
そう思いながら、お茶を飲む俺。
あ〜、こんな状況でもお茶が美味い。
「あ、もしかしてこの子のことが気になってるのかい?」
「....まぁ、そんなところですね」
そう言った後、大福を食べる俺。
.....この大福も大福で美味いな。
と、そんな感じでお茶を嗜んでいたまさにその時、ツクヨミさんはサラッと俺に向けてこんなことを言った。
「この子はね、今は日吉丸っていう名前だけど.....君達の時代では豊臣秀吉って呼ばれてる存在なんだよ」
ツクヨミさんがそう言った瞬間、思わずお茶を吹き出しかける俺。
この子供の正体が?鳴かぬなら鳴かせて見せようの豊臣秀吉?
.....マジで?
「.....マジすか?」
「うん、マジのマジだよ」
オィィィィ!?何でまた豊臣秀吉がここにぃぃぃぃぃ!?
俺と一緒にここにいるってことは....豊臣秀吉が死んだってことなのか!?
嘘だろ!?一体どうなってるんだよ!?
パニクっている俺を尻目に、ツクヨミさんは俺に対して申し訳なさそうな顔になりながらこう言った。
「あ〜、まぁ、君がそうなるのも無理はないよ。何せ、これは僕ら側でも想定外のことだからね」
つーか、神様側でも想定外の出来事だったのかよ!?
まぁ、確かに歴史に名を残している偉人が早めにポックリしちゃったら驚くよな。
....ん?ちょっと待てよ?
「てことは....本来の歴史はどうなるんですか?」
俺がそう尋ねたところ、当のツクヨミさんは苦笑いをするような顔になった後....日吉丸の頭を撫でながらこう言った。
「そう、そこなんだよ。豊臣秀吉はこの世界の歴史において、その名を残す偉大なる偉人の一人。だからこそ、どんな形であれ彼という存在は死んではならないんだよ」
そう語るツクヨミさんの顔は真剣そのもので、その様子を見た俺は事態の深刻さを察したのは言うまでもない。
それにしても.....子供時代の豊臣秀吉が死ぬなんて、一体何があったんだ?
余程のことがない限り、偉人なんてそう簡単に死なないぞ?
「というか、何でまた日吉丸くんは亡くなったんですか?」
「それが.....ゼウス殿とヘラ殿の夫婦喧嘩に巻き込まれたらしくて.......」
「はぁ!?」
まさかの他の国の神様の夫婦喧嘩が原因かよ!?
しかもゼウスって...多分、女性に関わる問題が発生したんだろうなぁ。
そんな騒動に巻き込まれた日吉丸くんが可哀想すぎるだろ!!
そう思いながら、大福を日吉丸くんに手渡す俺。
一方、日吉丸くんは良いの!?という顔になっていたのはまた別の話だ。
「だからこそ、君には日吉丸くんの分まで生きて欲しいんだよ」
「....ん?」
....俺が?日吉丸くんの分まで?生きる?
な〜んか、胸騒ぎがするのは気のせいなのか?
それとも俺の勘が働いているだけなのか?
とりあえず、この勘が当たらないことを祈るしかないな。
「ツクヨミさん、それってどういう....?」
俺がそう尋ねると、ツクヨミさんはニコッと笑いながらバッサリとこう言った。
「一言で言えば、君を日吉丸くんの体に憑依させる形で転生させようかなってことさ」
アッサリとした様子でそう言うツクヨミさんの隣には、覚悟を決めたような顔の日吉丸くんがいて、その表情には後に歴史に名を残すであろう英雄の顔になっていた。
....どんな時期であれ、日吉丸くんは英雄の素質を持った人間なんだと理解した俺は、日吉丸くんに対してこう尋ねた。
「日吉丸くん....君は、これからどうしたいの?」
「.....俺、今の今まで何にも出来ないまま死んじまった。だから、光兄ちゃんには俺の分まで生きて欲しいんだ!!俺の分まで....頑張って欲しいんだ!!」
生前のことを思い出してしまったのか、目に涙を浮かべながらそう叫ぶ日吉丸くん。
そんな彼を見たからか、彼の意思を尊重することを決めた俺は....日吉丸くんの手を握った後、こう言った。
「....ごめんな、日吉丸くん」
「良いんだよ!!だって、こういう時はお互い様だろ!!」
....俺も日吉丸くんの精神を見習わないとな。
そう思いながら、彼の手をギュッと握る俺。
その様子を見ていたツクヨミさんは俺らに対し、微笑むような顔になりながら見つめていて
「それじゃあ、決まりだね」
そう言った後、ツクヨミさんはジャージ服姿から和服姿へと変身した。
うん、オーラがスゲェな。
「それじゃあ、今から転生の準備に入るけど....何か質問はあるかい?」
優しい笑顔を浮かべながらそう言うツクヨミさんに対し、俺はしばらく考えた後....こう尋ねた。
「日吉丸くんは....どうなるんですか?」
俺がそう尋ねた瞬間、ツクヨミさんはニコッと微笑んだかと思えば、俺に向けて大丈夫だと言わんばかりにこんなことを言った。
「そうだね.....神々のトラブルに巻き込まれたお詫びとして、彼の魂もまた転生させるつもりだよ」
その言葉を聞いた俺は心の底からホッとした顔になった後、思わずこう言葉を漏らした。
「良かった.......」
俺の呟きを聞いたツクヨミさんと日吉丸くんは微笑むと、徐々に光の粒子に包まれていく俺の姿を見守っていた。
この光....何というか、ポカポカするな。
それに、ほんの少しだけ安心するような気がする。
こんなに居心地が良いと眠たくなってくるな....
「おやすみ、そして行ってらっしゃい。未来の英雄さん」
ツクヨミさんのその言葉と共に俺は瞼を閉じ、温かな光に包まれながらそのまま意識を失ったのだった。
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