第1話

 特別って、何だ。


 小学生のころの僕――佐伯湊さえき みなとは、それをずっと考えていた。生まれつきぜんそくがちで、運動会は見学、合唱コンクールは咳き込み、図工は手先が震えて線が曲がる。なにをやっても「ふつう」に届かない自分が嫌で、せめてどこか一箇所だけでも光りたいと、真剣に夜空を見上げては星座の名前を覚えた。


「湊は、特別になりたいの?」


 家の前の狭い公園。ブランコに腰かけて、となりで聞いたのは幼馴染の女の子――星名(ほしな)ほのかだ。髪はいつも半分だけ結んで、笑うと犬歯がのぞく。


「なる。絶対なる」


「なんで?」


「だって、ふつうのままじゃ誰にも見つけてもらえないから」


 言ってから、自分でも少し怖くなった。ほのかは目をぱちぱちさせて、それから唐突に立ち上がった。


「わかった。じゃあ、わたしが先に特別になってくる。湊が見つけられるくらい、でっかく」


「いや、ちが――」


 ちがう。僕がなりたいんだ。僕だけが。


 でも、ほのかは本当にそのまま走り出した。子どもが口走った願いを、彼女だけが本気で拾い上げた。


 それから数年、彼女は星になった。


 スターの「星」に、名を持つ子は、その名の通りに。

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