第三話 小古根の奇妙な生活
三日目の朝、広間では、祝宴が開かれた。
祝宴には、
仮面をつけたままの
「これで、わが娘、
継人さま、
餅を食べながら、
継人さまは愛想よく? 陰険に笑っていた。笑うとなぜか陰険に見える。不思議な人だった。
うらめしく、美味しそうな餅を見た。
顔の腫れがひかなかったからだ。
四日目には、嘘のように綺麗に腫れがひいたので、継人さまの部屋にいくと、
「
来てくれて嬉しいぞ。」
と、継人さまに笑顔で迎えられた。
「ありがとうございます。所用で、こちらに来れませんでしたが、これから、毎日、お世話させていただきます。」
「うむ。」
(本当は、あのう、昨日も会ってます。あなたがさ寝したのはあたし………。)
あの腕に抱かれ、あの唇にあられもないところを口づけされ、派手な
そう思うと、ぽっ、と頬が色づいてしまう。
継人さまは、あっさりした態度だ。
それから、
昼間は、継人さまのお世話をする、郷長の娘として過ごし。夜になると、仮面をつけて、
「良くやったわ。お姉さま。
あの
クズなお姉さまにお似合いかもね。プークスクス、ぶーひっひっひ!」
と上機嫌で笑った。
「昼間、仮面をつけて生活するのだけが窮屈ね。」
不満はそこだけのようだった。
継人さまは、頻繁に夜、
下半身だけで生きている
何を考えているかはわからないが、昼間、
「
なぜか
(バカなの? いつかばれるんじゃないの?)
とひやひやする。
(……ばれたらどうするつもりなのだろう。)
ばれた時にどんな事態になるか。だまされ、
「ぶーひっひっひ!」
上機嫌な
* * *
「
ついに数日間気になっていたことを訊ねた。気晴らしの囲碁を首名とさしていた継人さまは、
「ん?」
「向こうから、昼間も会えと申し入れがあったか?」
きょとんと首をかしげた。
「いえ……。」
「なら、ほっとけ、ほっとけ。仮面を外そうとしない
夜なら良い。首から下はむしゃぶりつきたくなる良い女だからな。
そう言い放って、また囲碁に没頭する。
首名は、
(これで良いのかなあ?)
そんな言葉が心に浮かぶ。何かが間違ってる気もしないではないが、それ以上、主君に問う言葉も持っていない。
* * *
郷長の娘として、継人さまに仕える
「これを
と、梓の木の枝に結んだ文を受け取る。
今夜、夜這ひをしますよ、という意思表示だ。
「ぶひっ、こういう面倒なのは、お姉さまの仕事よ。」
と、返事を丸投げされた。
さすが奈良の貴族さま。紙に丁寧に書かれた文字、教養あふれる恋文は、
「
継人さまに渡す。
「ふむ。今回の和歌はほどほどだな。」
継人は、
そして、夜、仮面をつけ
「こたびの和歌、恋ひ渡るべし、という表現に、心が踊るようでした。」
と、調子の良いことをニヤリと陰険に笑って言うのであった。
(ふーんだ。ほどほどだって言ってたくせに。こーの大嘘つきがぁぁ。)
継人さまは、短い言葉のやりとりのあと、仮面をつけたままの
「………ひぁっ。」
継人さまに抱かれるのが、いつしか、待ち遠しくなっている自分に気がつく。
継人さまは優しく、丁寧で、うまかった。
汗ばんだ肌をあわせ、かたい腕に爪をたてると、恍惚とした気分になって、意識が朦朧とする場所に連れていかれる。仮面に隠された自分の素顔は、今、どんなみだらな顔をしているだろう………。
「また来ます。」
継人さまはにっこりと笑って────どこか意地悪そうな笑顔で、満足そうに帰ってゆく。
しかし、この継人さま。変態だったのである。
「うっふっふ。
「ああ〜ん、継人さまぁ。」
継人さまは、よっぽど暇なのだろう。昼間から、お気に入りの
(信じらんない!
一度、夜、
「継人さまは、
と訊ねてやった。継人さまはぎょっとして、
「んっ?! いやあ、噂でしょう。信じてはいけませんよ。はっはっは………。」
笑って
(誤魔化されんわぁぁぁぁ────い!! 知ってるんだからね────!)
「おいしい干しブドウが食べたい。
「む? わかった。」
翌日、継人さまは、
「今夜、干しブドウと
と命令する。
「かしこまりました。」
「継人さまが、干しブドウと唐菓子を所望です。」
と伝える。そして………。
「
夜、
「ありがとうございます。」
と継人さまから受け取るのだ。仮面は外せないので、継人さまが帰ってから、一人で食べる。
「やったー、美味しいー!」
あむあむ、と干しブドウと唐菓子をほおばり、
「この生活も悪くないわね。」
にんまりするのであった。
継人さまは、ひんぱんに海にもぐった。
「あははは! 海で泳ぐのは、楽しいな。このまま漁師として生きていこうかな。
あはははは!」
額から海水がこぼれおち、九月の日差しがきらきらと水に光る。
「自由だ!」
そう無邪気に笑う継人さまは、いつもの陰険さのない笑顔だった。
「ほら、
「はい。」
ざざん、ざざん、と波がよせ、十八歳の男二人が、たぶさき(ふんどし)だけの姿で笑いあい、もぐり、また顔を見せる。
(楽しそう。………いっそのこと、本当に漁師になっちゃえばいいんじゃないですかねー。)
(そう思っていたのに、また、婚姻の道具として使われるとは思わなかったけど………。)
「あはははは、あはは、ふう、
継人さまが、波間から、浜辺で頬杖をついて座る
「おまえもはだかになって、一緒に泳ぐか?」
「お・よ・ぎ・ま・せん!」
(この色魔!)
↓ラフ画の仮面
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16818792439353308275
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