第四話 どんどん堕ちてゆく気がしています
使いは、白髪、白い長い髭をたくわえた、一見、唐にいるという仙人のようである。
「
もともと、
「どうしてここに?」
「郷長さまの
いつまでも娘が帰ってこないが、元気でいるか心配じゃ、と。」
「お父さま……。」
「
(帰れるものなら、帰りたい。
でも、身代わりの妻の役目を放り出して逃げたら、
「まだ帰れないわ。
今、奈良からの貴人が大領の屋敷に来てるの。あたし、その貴人のお世話係をしているの。」
「お、お世話係。よ、よもや……。」
老人の白髭が、ふるふると震えた。
「大丈夫、掃除や食事のお世話だけよ。ほかは、なんにもないの。安心して。」
(
「そうですか。わかりました。」
翁はほっとした顔をした。
「そうそう、松麻呂から、どうしても、と言付けを預かっておりまする。
帰りを待ってる、歌垣の約束を忘れないで、ですじゃ。ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、
「やだっ、
松麻呂も松麻呂よ、
「仕方ないのですじゃ。
「わかってるわ。」
「
「えっ、あたしに、人を増やす権限はないのよ。」
「下人の部屋にでも置いてもらいますじゃ。」
「
夜。
「もう幾晩も通っているのに、いっこうに打ち解けてくださいませんな?」
「ふぅ。」
継人さまはため息をついたあと、気持ちを入れ替えたかのように笑顔になる。
「仲良くなりましょう。せっかく
そうですね、たとえば、
「夢……。」
すこし気持ちが動いた。
「私は、父より出世することです。
私は犯罪者の息子だ。このまま何もしなければ、
継人さまは、遠い目をした。
「だから、頑張らねば、と思っているんですよ。」
継人さまは、苦笑した。頑張らねば、という言葉は、自分にむけて励まして言っている言葉に聞こえた。
「さ、あなたの夢は? 声をきかせてください。」
「たいした夢ではありません……。」
「ただ、平和に幸せに、
「ふふ、良い答えだ。あなたのことがすこしわかった気がする。良い夜だ……。」
継人さまがにじり寄ってきた。
寝床に座る
「あなたはまったく、おしゃべりが好きでないと見える。」
継人さまが、
「謎めいた人だ。それでいて、身体は熱い。」
継人さまの手が、つう、と
「あっ。」
「私は、あなたとの夜が待ち遠しいですよ……。」
「………。」
寝床のうえで大きく足を開かされ、とめどない快楽を与えられ、
「あぅあ、あっ、あっ、あっ……。」
抑えようのない
継人さまは、汗をかきながら、ぺろりと自分の唇をなめ、
「あなたも同じだといいんですがね。」
ニヤリと笑いながら、
その時には、恐るべきたくみな腰づかいで、
「ひぁあ……………。」
(ああ、いい。もっと……。欲しい。続けて……。)
心のなかでそんなおねだりを継人さまにしてるのだが、絶対に口にできない。
でもきっと、この人には
継人さまは
昼間、郷長の娘の姿の
「継人さまは、府田売さまを愛しておいでなんですか?」
継人さまに、そんな質問を投げかけてみる。
「うん? 多分な。」
非常に軽い答えが返ってきた。
継人さまが顔をしかめる。
「なんだ。これは家の結びつきの話。愛とか恋とかどうでもいい。府田売とは、
「
ちゃんと愛されて、妻になりたいです。」
「ふーん。」
床を
「わっ。」
「きっと、府田売は満足してるはずだ。私はその自信があるぞ。
「欲ーしくないわぁ───!!」
「ばふっ!」
「継人さまー!
従者、
(やりすぎたかも?!)
「申し訳ありません。」
「……くく、良いわ。」
顔のホコリをはらい落としながら、継人さまは
(うっ、怒ってる。)
継人さまはおもむろに
「これも、これも、これも。」
衣を抱えきれないほど、いくつも取り出し、
「
陰険な雰囲気を振りまきながら、命令した。あきらかに、嫌がらせだ。
(多い!)
「わかりました!」
そのあと、
(おーのーれぇー……。)
その夜。
なんとか繕いものを終わらせた
無言であちこち、継人さまの皮膚をつねってやったのである。
「あいっ、痛、どうしたのですか、府田売。」
「…………。」
「痛た、降参です。」
「ふん!」
しゃべるつもりはなかったのだが、愉快でつい、笑った拍子に、声が漏れてしまったのだった。
翌日。
「ねぇ、どうなのー、継人さまは?」
「昨日も夜這ひなさいました。
愛しています、謎めいた人とおっしゃいました。」
「あははは、なーにそれ! やだ、うけるぅ。ぶっひっひ。」
「………。」
(言いたくないわ。
継人さまとの
「お姉さまがいてくださって、助かりましたわぁん。罪人の息子の妻なんて、ごめんですもの。
おかげであたしは、もっと条件のいい男を、いつか捕まえられますわ。
あたしの! この色気で! ぶーひっひっひ!」
「ねえ、いつまでこれを続けるの? あたしを郷長の屋敷に返してくれないの? もうずいぶん、留守にしてるわ。」
「ぶーひっひ! まだ、駄目よ。だって、あの貴人が屋敷に居座ってるんですもの。あたしのせいじゃないわ。あの貴人のせいよ。」
できることなら、今すぐ、
そうでないと……。
継人さまの
↓挿絵です。
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/822139838977929546
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