第11話:クラスのヒーロー、そして次のページへ

「――というわけで、来週までに、クラスで壁新聞を一枚作ってもらいます!」


先生の言葉に、教室がざわついた。

壁新聞。

クラスの出来事やニュースを、自分たちで記事にしてまとめる、よくある学校行事だ。


「何の記事にするー?」

「最近のビッグニュースと言えば、春海くんでしょ!」


放課後、クラスでの話し合いはすぐにまとまった。

今回の壁新聞は、「春海悠 大特集」に決定。

俺の意見を聞く前に、クラスの総意は固まってしまったらしい。


「じゃあ、取材担当は俺がやる!」

親友のユウトが真っ先に手を挙げた。


「イラストとか見出しは私がやる!」

クラスで一番絵が上手い、三井夏希も続いてくれる。


こうして、俺を中心にしたクラスの一大プロジェクトが、ワイワイと騒がしく始まった。

次の日から、休み時間はユウトの無茶苦茶なインタビューに答えたり、夏希が描く、実際より三倍はカッコいい俺のイラストを眺めたりして過ぎていった。


少し恥ずかしいけど、クラスのみんなが自分のことのように楽しんでくれているのが、なんだか嬉しかった。



そして一週間後、俺たちのクラスの壁新聞がついに完成した。


教室の後ろの壁に張り出された模造紙には、夏希が描いた俺のイラストと、クラスのみんなで撮った写真が、ところ狭しと貼られている。

見出しには、少しだけ曲がった文字で、こう書かれていた。


『我らがヒーロー! 春海悠! その伝説に迫る!』


完成した新聞は、クラスの人気者になった。

休み時間になると、新聞の前にはいつも人だかりができて、指をさしながらワイワイと騒いでいる。


その日の放課後。

ほとんどの生徒が帰り、静かになった教室で、俺とユウト、そして夏希の三人は、もう一度完成した新聞を眺めていた。


夕日が差し込む教室で、壁新聞はなんだかキラキラして見える。

リレーで一位になった時の写真。

夏希が描いてくれた、サッカーボールを蹴る俺のイラスト。

野球のユニフォームを着て、少し緊張した顔の俺。

一つ一つが、ついこの間のことなのに、なんだかすごく懐かしい気がした。


「なあ、悠」


ユウトが、新聞に描かれた俺のイラストを指さしながら言った。


「すげえよな、お前。でもさ、これ、まだ小学生編の第一章って感じだよな」


「第一章?」


「ああ。物語はまだ始まったばっかり、みたいな」


ユウトの言葉に、夏希も大きく頷いた。


「うん、分かる! 中学に行ったら、この記事の続きが書けるね! もっとすごい新聞になるよ、きっと!」


中学。

その言葉の響きに、俺は少しだけ胸が高鳴るのを感じた。

まだ見ぬ、新しいステージ。

そこには、どんな「楽しいこと」が待っているんだろう。


俺は、自分の活躍が、最高の友達との思い出として、こうして一枚の紙の上に形になっているのを見て、改めて嬉しい気持ちになった。

一人でこっそりスマホに記録していた時とは、比べ物にならないくらいの満足感。


俺は、二人に向かって力強く頷いた。


「ああ。中学では、もっとすごいページを作ろうぜ」


俺の言葉に、ユウトと夏希はニカッと笑って、同時に拳を突き出した。

俺も、その二つの拳に、自分の拳をそっと合わせる。


小学生編は、これで終わり。

でも、俺の物語は、まだ始まったばかりだ。

最高の仲間たちと一緒に、次のページをめくる準備は、もうできている。

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