3日目 図書館

夜の街を歩いたピミイは、ひときわ落ち着いた灯りに引き寄せられた。

 ガラス越しに見えるのは、本の棚。本屋だった。

 扉が開き、客が出ていく。そのすき間から、ピミイはするりと中へ入った。

 中は静かで、紙とインクの匂いが漂っていた。


 レジに座っていた若い女性が、ピミイに気づいた。

「あれ……着ぐるみ?」

 だが、すぐに首をかしげる。静かに立ち尽くすその姿は、どう見ても本棚の中に紛れ込んだ不思議な存在だった。

 女性は少し笑って、手招きした。

「暇なら、手伝ってっていいよ」

 ピミイは、こくんともせずに棚へ向かう。

 本の山を両手で抱え、ずしりとした重みにも平然と歩く。

 客が驚いた顔をするたび、ピミイは耳をぴくぴく動かした。


 絵本の棚に並べるとき、ピミイは一冊を開いた。

 カラフルな動物の絵が描かれている。ページをめくるたびに、森や川や空が広がっていく。

 ピミイは目を細めて、じっと絵を見つめた。

 それは、もう燃えてなくなった森に少しだけ似ていた。

 女性が近寄ってきて、そっと笑った。

「気に入った?」

 答えはない。ただページをなぞる手が、ゆっくり動いていた。


 やがて夜が更け、店を閉める時間になる。

 女性は、絵本を一冊紙袋に入れ、ポミイに差し出した。

「持っていっていいよ。宣伝になるから」

 ピミイは袋を胸に抱え、ぺこりと頭を下げた。


 扉を出ると、街の喧噪がまた迎えにくる。

 袋の中から顔をのぞかせる絵本。

 そこには、木にぶら下がるコアラの姿が描かれていた。

 ピミイは足を止め、しばらく見つめた。

 そしてまた、静かに歩き出す。

 

行き先は決まっていない。けれども、本があれば旅の道は少しだけ柔らかくなるように思えた。

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