2日目 工事現場

 パン屋をあとにしたポミイは、クロワッサンを胸に抱えたまま街を歩いた。


 やがて、大きな音が耳に飛び込んでくる。ガガガッ、と地面を震わせる音。黄色いヘルメットをかぶった人間たちが、鉄の棒やコンクリートを積み上げていた。

 工事現場だった。


 ピミイが立ち止まると、すぐに一人の作業員が気づいた。

「お? なんだ、着ぐるみか。……まぁいい、手が足りん。そこの資材、持ってきてくれ!」


 声を理解したわけではない。ただ、指さされた方向に、鉄の棒が積まれていた。

 ピミイはふらりと二本足で近づき、ひょいと抱き上げる。

 作業員たちの目が一斉に丸くなった。

「おい、本気で持ちやがったぞ!」

「力持ちのマスコットか? ははっ、いいな!」

 それからピミイは、資材運びの手伝いを始めた。

 鉄の棒、木材、砂袋。小さな体なのに、意外と力がある。重たいものを運んでも、平然としている。

 作業員たちは笑いながら拍手を送った。


 昼休みになると、みんなが弁当を広げた。

 ピミイの前にも、三角おにぎりが一つ置かれる。誰かが「食えよ」と言ったのだろう。

 ピミイは両手で大事そうに握り、もぐもぐと食べた。森にはなかった塩気に、耳がぴくぴく震える。


 午後、空が少し曇り始めたころ。

 作業員の一人が足を滑らせ、鉄骨の影に倒れ込んだ。

 ピミイはすぐさま駆け寄る。両手で鉄骨を支え、ぐっと持ち上げた。

 小さな体には不釣り合いな力。作業員は驚きの声を上げながら、無事に引き上げられた。

「助かった……! お前、ただのマスコットじゃねぇな……」


 だが、夕方になるとピミイはまた歩き出した。

 名残惜しそうに手を振る作業員たちを背に、無言のまま現場をあとにする。

 クロワッサンの袋の中には、新しく詰め込まれたおにぎりが二つ。

 街は広く、灯りは尽きない。


 ピミイの放浪は、まだまだ続いていく。

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