EP 45
走る我が家と道中の出会い
エリーナが開発した『魔導トレーラー・マークⅠ』は、まさに“走る我が家”だった。
魔力で静かに駆動するため揺れは少なく、内部には快適な居住空間が確保されている。エリーナお得意の「自動お茶くみ人形(時々こぼす)」や、「自動運転モード(時々道を間違えそうになるのをモウラが修正する)」といった、少しポンコツだが愛すべき機能も満載だ。
「すごいな、これならどこまでも旅ができそうだ!」
「でしょでしょ! まだ改良の余地はあるけどね!」
優斗とエリーナが技術談義に花を咲かせ、モウラが街道からの景色に目を輝かせ、ヴォルフがソファで昼寝を決め込む。旅は、順風満帆な滑り出しを見せていた。
日が暮れて野営の準備となれば、優斗の独壇場だ。
《物質変換》で、ふかふかのベッドを備えた豪華なテントや、湯加減ばっちりの岩風呂まで作り出してしまう。
「きゃー! お風呂! 野宿でお風呂に入れるなんて、夢みたい!」
「最高だわ……旅の疲れが癒される……」
満点の星空の下、湯気に顔をほころばせるモウラとエリーナ。その日の夕食は、優斗が作った醤油味のバーベキューだ。ヴォルフも、極上の肉と酒に、いつになく上機嫌だった。
そんな快適な旅が数日続いたある日のこと。
一行は、街道の真ん中で車輪が外れ、立ち往生している一台の豪華な馬車を発見した。傍らでは、屈強な護衛たちが怪我を負い、見るからに裕福そうなドワーフの商人が途方に暮れている。
「お困りのようですね。どうなさいましたか?」
優斗が声をかけると、ドワーフの商人は一行の魔導トレーラーを見て、驚きに目を見開いた。
話を聞けば、モンスターの襲撃で護衛が傷つき、馬車も壊れてしまったのだという。
「放ってはおけないな」
優斗のその一言で、救助活動が始まった。
「まあ、この程度の車軸の破損なら、私にかかればお茶の子さいさいよ!」
エリーナが、世界樹の杖を工具に変形させ、鮮やかな手つきで馬車を修理していく。
「護衛の皆さん、痛かったでしょう。すぐに楽になりますからね」
優斗は、怪我をした護衛たちに『百狼堂』仕込みの施術を行い、その痛みを和らげた。
「お食事も、まだだったでしょう? よかったらどうぞ」
モウラと優斗が、手早く温かいスープとサンドイッチを作り、彼らに振る舞う。
あっという間に全てのトラブルを解決してしまった一行に、ドワーフの商人はただただ圧倒されていた。
やがて彼は、深々と頭を下げる。
「なんと御礼を申してよいか……。わしは、ガント・アイアンハンド。ドワーフの国で五指に入る『アイアンハンド商会』の会頭をしておる者じゃ。このご恩は、必ずや倍にしてお返ししよう」
ガントと名乗った商人は、優斗たちの技術、特に治療と料理にいたく感銘を受けた様子だった。
「もしや、あなた方もドワーフの国へ? であれば、これを。わしの商会の通行証じゃ。これがあれば、面倒な関所も顔パスで通れるじゃろう。国に着いたら、必ずわしの商会を訪ねてくだされ。最高の歓待をお約束しますぞ」
そう言って手渡されたのは、ドワーフの国の紋章が刻まれた、ずしりと重い金属製の通行証だった。
ガントと別れ、再び街道を進む魔導トレーラーの中は、明るい興奮に満ちていた。
「すごいわ! ドワーフの国の大商人とコネができたじゃない!」
「人助けは、するもんだな」
「へっ、これで、俺たちの“商品”を売り込む先もできたってわけだ」
何気ない善意が、最高の形で新たな商機へと繋がった。
優斗たちの、ドワーフの国でのビジネスは、始まる前から、幸運な追い風に恵まれていたのだった。
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