EP 46

職人たちの都

アイアンハンド商会との出会いから数日、一行が乗る魔導トレーラーは、緑豊かな街道を抜け、岩肌が剥き出しの山脈地帯へと入っていた。空気はひんやりと澄み、あちこちから鉱物の匂いがする。

「見て! あれがドワーフの国の入り口よ!」

エリーナが興奮した声で指差す先には、巨大な山脈をくり抜いて作られた、壮麗な大門がそびえ立っていた。門には伝説の戦斧やハンマーを構えるドワーフの王たちの姿が彫刻され、その威容は見る者を圧倒する。

大門の前では、分厚い鋼の鎧に身を固めたドワーフの衛兵たちが、厳しい目で訪問者たちを検問していた。一行の、見たこともない魔導トレーラーも、当然のように停止を命じられる。

「止まれ! その奇妙な馬車は何だ! どこから来た、目的は!」

いかにも厳格そうな衛兵長が、一行を睨みつける。優斗が慌ててトレーラーから降り、ガントから預かった金属製の通行証を差し出した。

「これは……! アイアンハンド商会の最高級通行証ではないか!」

衛兵長の態度が、一瞬にして豹変した。さっきまでの厳しい表情はどこへやら、深々と敬礼をしてみせる。

「これは大変失礼いたしました! どうぞ、お通りください!」

ガント・アイアンハンドの名は、この国では絶大な力を持っているらしい。一行は、ドワーフたちの敬意に満ちた視線を浴びながら、ゆっくりと大門をくぐった。

その先に広がっていた光景に、一行は言葉を失った。

そこは、巨大な地下空洞に築かれた、壮大な都市だった。

天井からは、魔力で輝く巨大な水晶がいくつも吊り下げられ、昼間のように明るく洞窟内を照らしている。眼下には、溶岩の川が流れ、その熱と蒸気を利用したであろう機械があちこちで稼働していた。カコン、カコンと鉱石を運ぶトロッコが走り、カン!カン!という無数の槌の音が、まるで街の心臓の鼓動のように、絶えず響き渡っている。

「すごい……すごいわ! 街全体が、一つの巨大な工房みたい!」

エリーナは、魔工技士として、その光景に完全に心を奪われていた。あちこちの工房を指差しては、「あそこの蒸気機関は!」「あの歯車の連動は!」と、専門家モード全開だ。

「わぁ……お日様が見えないのに、こんなに明るいのね」

モウラは、少し落ち着かない様子で、きょろきょろと天井を見上げている。

「へっ、さすがはドワーフの国だ。そこらの兵士が持ってる剣ですら、エターナルの騎士団が使う一級品だぜ」

ヴォルフは、抜け目なく街の武具のレベルを分析していた。

優斗は、そんな仲間たちの反応を微笑ましく見守りながら、この職人たちの都が持つ、独特の熱気と活気に胸を躍らせていた。

醤油や味噌は、肉と酒を愛するこのドワーフたちに受け入れられるだろうか?

『百狼堂』の癒やしの技術は、屈強な職人たちの体を癒せるだろうか?

「さて、と。まずは、俺たちの恩人、ガントさんの商会を訪ねるとしようか」

優斗のその一言で、一行の新たな目的が決まった。

彼らが持ち込んだ、エターナルの“商品”と“技術”。それが、この伝統と格式を重んじる職人の国で、一体どんな化学反応を起こすのか。

優斗たちの、ドワーフの国での商売冒険が、今、幕を開けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る