EP 44
ドワーフの国からの招待状
大収穫祭の熱狂が過ぎ去り、エターナルの街には穏やかな日常が戻っていた。
『百狼堂』と『異世界食堂・YUTO』は、祭りを経てさらにその名声を高め、今や押しも押されもせぬ人気店として、街の経済を力強く回している。
優斗たちの生活も、心地よいルーティンの中にあった。
昼はそれぞれの店で働き、夜は仲間たちと食卓を囲んで語り合う。そんな満ち足りた日々が、優斗にとってはかけがえのない宝物だった。
その日も、平和な午後が過ぎていくはずだった。
『百狼堂』の扉が、カラン、と音を立てて開く。入ってきたのは、見慣れない、いかにも頑固そうなドワーフの一団。その胸には、ドワーフの国の紋章が輝いていた。
「ここに、エリーナ・シフォンヌという名の、エルフの魔工技士がおると聞いてやってきた」
代表らしきドワーフの言葉に、奥からエリーナがひょっこりと顔を出す。ドワーフは彼女の姿を認めると、恭しく一通の羊皮紙を差し出した。
「我らは、ドワーフの国より参った使者。貴殿が開発したという“自動調理器具”や“折りたたみベッド”の噂は、我ら職人の国にも届いておる。つきましては、我が国の王都にある大工房へお越しいただき、ぜひとも技術交流の機会を賜りたい」
それは、彼女が本来の目的地としていた、あのドワーフの国からの正式な招待状だった。
「……! い、行きます! 行かせていただきます!」
エリーナは、子供のようにはしゃぎ、その場でぴょんぴょんと飛び跳ねた。
その夜、作戦室では、ドワーフの国への旅が正式な議題として上がっていた。
「良かったな、エリーナ。夢が叶うじゃないか」
優斗の言葉に、エリーナは満面の笑みで頷く。そして、優斗は地図を広げながら、悪戯っぽく笑った。
「でも、せっかくドワーフの国まで行くんだ。ただ技術交流だけで終わらせるのは、もったいないと思わないか?」
「「?」」
仲間たちが首をかしげる前で、優斗は壮大な計画を打ち明けた。
「向こうには、きっと素晴らしい鉱石や武具がある。逆に、こちらには、向こうにはない調味料や、癒やしの技術がある。これを交換するんだ。――俺たちで、“貿易”を始めよう」
その言葉に、全員の目が輝いた。
「面白い! 良いぜ、乗った!」
「素敵! 私たちの作ったものが、別の国の人を喜ばせるのね!」
話はとんとん拍子に進んでいく。
エターナルからは、優斗が生み出す醤油やソース、そして『百狼堂』特製の癒やし軟膏を。
ドワーフの国からは、エリーナが必要とする希少鉱石や、ヴォルフが欲しがる高品質な武具を仕入れる。
「問題は輸送手段ね……でも、任せて!」
エリーナは自信満々に胸を叩く。
「この日のために、荷物をたくさん積めて、魔力で自走する“魔導トレーラー”の設計図を温めておいたのよ!」
ギルドマスターのユリリンも、この大陸をまたにかける新たなビジネスに、二つ返事で「交易許可証」を発行してくれた。
数週間後。
エターナルの門の前には、エリーナが夜なべして作り上げた、少し無骨だが頼もしそうな魔導トレーラーが停まっていた。
『百狼堂』と『YUTO』の運営を、成長した弟子たちに託し、優斗、モウラ、エリーナ、そしてヴォルフの四人は、夢と希望と、そしてたくさんの交易品をトレーラーに詰め込む。
「それじゃあ、行ってきます!」
目的地は、まだ見ぬ職人たちの国。
癒しと食でエターナルを席巻した一行は、今、大陸の経済を動かす“貿易商”として、新たな冒聞の街道へと、アクセルを踏み込んだのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます