EP 43

収穫祭と新たな商機

『異世界食堂・YUTO』のチーズケーキブームも少し落ち着き、優斗たちの店は、すっかりエターナルの日常風景に溶け込んでいた。そんなある日、街全体がどこか浮き足立ち、活気づいていることに優斗は気づいた。

「なんだか、みんなそわそわしてない?」

「ふふっ、もうすぐ、エターナルで一番大きなお祭り、『大収穫祭』の季節だからよ!」

食堂の看板娘として働くモウラが、嬉しそうに教えてくれた。一年に一度、秋の収穫を祝うこの祭りでは、一週間にわたって街中が飾り付けられ、様々な催し物や屋台で賑わうのだという。

そこに、金の匂いを嗅ぎつけたギルドマスターのユリリンが、絶妙のタイミングで現れた。

「優斗様。ゴールド商人である貴方たちが、この街最大の商機を逃すわけがありませんわよね? もちろん、出店なさいますわよね?」

その有無を言わさぬ笑顔は、もはや「命令」に近かった。

その夜、作戦室では緊急の「収穫祭対策会議」が開かれていた。

「祭りといえば、やっぱり食べ歩きできる屋台メニューだよな」

優斗の提案に、全員が頷く。彼の記憶から引き出されたのは、ソースの香ばしい匂いがたまらない「焼きそば」、丸くて不思議な食感の「たこ焼き」、そして甘くて美しい「りんご飴」や「チョコバナナ」。仲間たちは、聞くだけで涎が出そうな未知の料理の数々に、目を輝かせた。

「面白いわ! 任せて! たこ焼きを自動でクルクル返す、たこ焼き専用オートマタを開発してあげる!」

エリーナの魔工技士の血が、最高潮に燃え上がる。

「癒し処のほうも、何か出すか?」

「祭りで歩き疲れた客はごまんといるはずだ」

ヴォルフの提案で、『百狼堂』はワンコインで受けられる「青空足つぼマッサージ」の屋台を出すことも決まった。

準備は、祭りの高揚感と共にてきぱきと進んでいった。

モウラが用意してくれた、日本の法被(はっぴ)を思わせる動きやすいお祭り衣装に、全員で袖を通す。普段と違う凛々しい優斗やヴォルフの姿に、モウラとエリーナが頬を染める一幕もあった。

そして、収穫祭当日。

エターナルの街は、人と熱気でごった返していた。

『YUTO』の屋台から漂う、ソースと醤油の香ばしい匂いは、まさしく反則級の客寄せだった。

「な、なんだこの麺は!? 野菜と肉の旨味が絡みついて、いくらでも食えるぞ!」

「この丸い食べ物、中にプリプリのタコが入ってる!? 美味しすぎる!」

エリーナ開発の半自動調理器具のおかげで、商品は面白いように売れていく。

隣の『百狼堂』の屋台も、

「天国か……」「足が羽になったようだ……」

と、歩き疲れた人々のオアシスとして、大盛況だった。

日が暮れ、祭りの終わりを告げる、色とりどりの魔法の光――“魔工花火”が夜空を彩る。

優斗は、屋台の片付けをしながら、仲間たちと一緒にその美しい光景を見上げていた。

活気あふれる街の喧騒。

仲間たちの楽しそうな笑い声。

客たちの「美味しかったよ」「ありがとう」という言葉。

「……この世界に来て、本当に良かったな」

優斗がぽつりと呟いた言葉は、祭りの賑わいの中に、けれど確かに、仲間たちの心に届いていた。

エターナルでの、最高に幸せな一日が、こうして過ぎていく。

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