EP 39

そして、旅は続く

ワギュウの里での祝宴を終え、エターナルに戻ってから数ヶ月が過ぎた。

優斗が興した癒し処『百狼堂』は、今やエターナルの街になくてはならない存在となっていた。ヴォルフの的確な差配と、すっかり治療家として板についた元・百狼のメンバーたちのおかげで、優斗がいなくても店は問題なく回っている。

その日の午後、優斗、モウラ、エリーナ、そしてヴォルフは、『百狼堂』の最上階にある作戦室で、一枚の大きな地図を囲んでいた。

「さて、と」

優斗が、仲間たちの顔を見回す。

「店も安定したことだし、そろそろ俺たちの旅を始めようと思うんだけど……みんな、どこか行きたい場所とかある?」

その一言に、エリーナが勢いよく手を挙げた。

「はいはいはーい! やっぱり、私が元々目指していたドワーフの国へ行きましょうよ! きっと、私の魔工技術の役に立つ、すごい発明のヒントが眠っているに違いないわ!」

「私は、もっと南の大草原が見てみたいな。色んな獣人族の部族が、伝統的な暮らしをしているって聞くから」

モウラも、故郷を懐かしむように目を細める。

「どうせなら一攫千金、古代遺跡の宝探しってのも悪くねぇ。腕が鳴るぜ」

ヴォルフが、不敵な笑みを浮かべた。

三者三様の夢が語られ、和やかな空気が流れる。どこへ行こうと、この仲間たちとなら、きっと楽しい旅になるだろう。優斗がそう確信した、その時だった。

コンコン、と作戦室の扉がノックされた。

「優斗様、いらっしゃいますか?」

入ってきたのは、商業ギルドマスターのユリリンだった。いつもの商売用の笑顔ではなく、その表情は少し曇っている。

「ユリリンさん、どうかなさいましたか?」

「ええ、実は……ゴールド商人である貴方たちにしか頼めない、内密の依頼がありまして」

ユリリンが広げた地図が指し示したのは、ルミナス帝国との国境近く、三国間の緩衝地帯にポツンと存在する、小さな村だった。

「ここは……?」

「かつて『銀の泉』と呼ばれた、美しい村です。しかし、数ヶ月前から、原因不明の奇病が流行り、村人たちは生きたまま衰弱しているとか。帝国の高名な神官も、王都の医師たちも、匙を投げてしまったそうですわ」

その言葉に、優斗の表情が変わる。

「わたくしども商業ギルドも、あの村との交易が途絶え、困っておりまして。どうか、貴方たちの不思議な『癒しの力』と、ヴォルフ殿の持つ『調査能力』で、この病の原因を突き止めてはいただけませんでしょうか」

それは、単なる人助けではない。三国間の緊張が走る、危険な国境地帯への旅を意味していた。

だが、優斗の答えは決まっていた。

「……分かりました。その依頼、引き受けます」

困っている人がいるのなら、手を差し伸べる。それが、彼がこの世界で見つけた、自分の生き方だった。

「ありがとう、優斗!」

「面白くなってきたじゃない!」

「やれやれ、のんびり宝探しとはいかねぇみたいだな」

仲間たちの顔にも、決意の色が浮かぶ。

こうして、優斗たちの最初の旅の目的地は、思いがけない形で決まった。

未知なる病と、そこに渦巻くであろう陰謀を解き明かすため。

四人の乗合馬車は、一路、ルミナス帝国との国境を目指し、エターナルの大きな門をくぐっていく。

優斗の、そして仲間たちの、本当の冒険が、今また新たに始まろうとしていた。

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