EP 40
エターナル食文化革命
ゲドン男爵の事件が解決し、ワギュウの里との絆を再確認した優斗たち。エターナルに戻った彼らの日常は、活気に満ちていた。癒し処『百狼堂』は今日も大盛況だ。
その日の昼食時、『百狼堂』の食堂で、仲間たちがテーブルを囲んでいた。メニューは、モウラが腕によりをかけて作った肉のハーブ焼きだ。
「うん、美味しいよモウラ。いつもありがとう」
「えへへ、そう? よかったわ」
「ええ、美味しいわ。美味しいのだけど……」
エリーナが、少しだけ物憂げにフォークを置いた。
「最近、毎日がご馳走で嬉しいのだけど、味付けが塩と香辛料だけだと、少し飽きてきちゃうわね」
「違ぇねぇ。まあ、贅沢な悩みだがな」
エリーナとヴォルフの言葉に、優斗は懐かしそうに目を細めた。
「俺の故郷には、もっと色々な味があったんだけどな。甘くてしょっぱい味、酸っぱい味、コクのある味……」
「「どんな味!?」」
モウラとエリーナの瞳が、好奇心にキラキラと輝く。
その純粋な眼差しに、優斗は悪戯っぽく笑った。
「……見せてあげるよ。俺の故郷の“魔法”をね」
優斗は三人を連れて、厨房へと向かった。そして、足元に転がっていた石ころと、倉庫にあった家畜用の大豆をいくつか手に取る。
「いい? よく見てて。――石よ、醤油になれ! 大豆よ、味噌になれ!」
優斗が念じると、石は光と共に黒く艶やかな液体に、大豆は芳醇な香りを放つ茶色のペーストへと姿を変えた。
「なっ!? また元素変換を……!」
「この黒い水は何かしら? 少ししょっぱい匂いがするわ」
未知の調味料の登場に、仲間たちが興味津々で見守る中、優斗は手際よく調理を始めた。肉を醤油ベースの甘辛いタレに絡めて焼き、野菜と味噌でお椀にスープを作る。
やがて、厨房にはエターナルの誰も嗅いだことのない、香ばしく、食欲を刺激する匂いが満ち満ちていく。
完成したのは、「肉の照り焼き」と「味噌汁」だった。
「さあ、召し上がれ」
三人は、恐る恐る、しかし期待に満ちた目で、その未知の料理を口に運んだ。
次の瞬間、三人の顔に衝撃が走る。
「な、何これぇっ!? 甘くてしょっぱくて、香ばしい! お肉が、お肉がいくらでも食べられちゃうわ!」
モウラが、獣人らしく野生的に肉に食らいつく。
「このスープ……! ただの塩味じゃない、複雑で、深みがあって、体が心の底から温まる……! ダメ、成分を分析しないと私の魔工技士の血が許さないわ!」
エリーナは、レンゲを片手にぶつぶつと呟き始めた。
「……悪くねぇ。いや、最高だ。酒が欲しくなる」
ヴォルフも、ぶっきらぼうな口調ながら、その目は感動に潤んでいた。
そこに、噂の匂い(と騒ぎ)を聞きつけたギルドマスターのユリリンが、ひょっこりと顔を出す。優斗が差し出した照り焼きを一口食べた彼女は、その場で固まった。
そして、次の瞬間、その九本の尻尾を逆立て、商人の顔で叫んだ。
「優斗様ッ! この『しょうゆ』と『みそ』は! エターナルの食文化を、いえ、この大陸の食の歴史を根底から覆す、黄金の調味料ですわ! これを商売にしない手はありません!」
その言葉が、新たな伝説の始まりを告げるゴングとなった。
『百狼堂』の隣の空き店舗を、ユリリンがその場で買い取る。
「店名は、そうね……『異世界食堂・YUTO』とでもしましょうか!」
癒しで人々の体を満たした優斗が次に仕掛けるのは、未知なる「美味」で、エターナルの民の“胃袋”を掴むこと。
彼の、美味しくてとんでもない挑戦が、今、始まろうとしていた。
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