EP 33
祝いの食卓と新たな決意
夜の帳が下り、『百狼堂』の喧騒が嘘のように静まり返った。
建物の三階にある談話室では、優斗、モウラ、エリーナ、そしてヴォルフの四人が、ささやかな祝杯を挙げていた。テーブルの上には、今日の儲けで買ってきた豪勢な料理が並んでいる。
「いやー、まさか、こんな日が来るとはな……」
ヴォルフが、感慨深げにエールを呷る。彼の手下たちも、階下で自分たちの稼いだ金で買った酒を酌み交わし、喜びの声を上げていた。
「本当ね! 優斗の発明……じゃなくて、技術は、本当に人を幸せにする力があるわ!」
エリーナが、自分のことのように胸を張る。
「みんなのおかげだよ。モウラが受付を頑張ってくれて、エリーナが道具を揃えてくれて、ヴォルフが街のチンピラを睨んでてくれたから、無事に終われたんだ」
優斗の言葉に、モウラがはにかむ。一日の成功が、四人の絆をより一層強いものにしていた。
だが、祝杯を重ねるうちに、一つの重い話題が自然と持ち上がる。
「……なあ、優斗。例の、モウラを狙ってる貴族の件、どうするんだ?」
ヴォルフが、真剣な眼差しで切り出した。
「金貨200枚なら、もう今日の稼ぎだけでお釣りが来る。だが、ワイルドの旦那の言う通り、金を払ったところであいつらが引き下がるとは思えねぇ」
その言葉に、楽しい雰囲気が一転し、緊張が走る。ワギュウの里に残してきた、未解決の問題。彼らがこの街に来た、根本の原因だ。
「そう……よね。私がお父さんたちに会えないままなのは……寂しいもの」
モウラが、寂しそうに俯く。優斗は、その手を優しく握った。
「もう、逃げるのは終わりにしよう」
優斗の静かだが、力強い言葉に、三人が顔を上げる。
「俺たちには今、力がある。お金もあるし、この『百狼堂』っていう拠点もできた。それに、頼りになる仲間もいる」
優斗は、ヴォルフをまっすぐに見つめた。
「ヴォルフ、君の情報網で、モウラを狙っている貴族の正体を突き止めてはくれないか?」
その目に宿る信頼の色を読み取り、ヴォルフはニヤリと笑った。
「へっ、安い御用だ。エターナルの裏社会(こっち)の情報(みみ)を舐めてもらっちゃ困る。どんな汚い秘密だろうと、丸裸にしてやるさ」
「ありがとう。敵の正体が分かれば、対策も立てられるはずだ。エリーナの技術や、モウラの強さ、そして百狼堂のみんなの力も借りて、今度はこちらから仕掛けよう」
それは、守りから攻めへの転換を意味する、宣戦布告だった。もう、理不尽な権力に怯え、逃げ隠れするだけの日々は終わりだ。
「うん!」
「面白くなってきたじゃない!」
「任せとけ!」
モウラ、エリーナ、ヴォルフが、力強く頷く。
四人は、それぞれのグラスを高く掲げた。
「――俺たちの未来に、乾杯!」
優斗の掛け声と共に、グラスが軽快な音を立てて合わさる。
それは、ワギュウの里を救い、そしてモウラの自由を勝ち取るための、新たな戦いの始まりを告げる、誓いの音だった。
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