EP 31

百狼堂、誕生

商業ギルドの個室から出ると、ヴォルフがまだ信じられないといった様子で優斗に詰め寄った。

「お、おい、優斗……ゴールドランクだぞ!? エターナルでゴールド商人って言ったら、貴族様と同じくらいの扱いを受けるんだぞ! お前、自分が何になったか分かってるのか!?」

「え、そうなの?」

「無知ってのは恐ろしいな……」

ヴォルフが頭を抱える。そんな一行に、ギルドマスターのユリリンが、優雅な笑みを浮かべて声をかけた。

「優斗様。ゴールド商人となられたからには、それ相応の活動拠点が必要になりますわね」

「拠点、ですか?」

「ええ。わたくし、ギルドマスターとして、この素晴らしい事業にぜひとも投資させていただきたいのです。つきましては、ギルドが所有しております物件を、一つお貸ししましょう。もちろん、ギルドからの先行投資ですので、賃料は当分結構ですわ」

ユリリンが示したのは、大通りに面した三階建ての、少し古びてはいるが見事な石造りの建物だった。元は高級宿屋だったが、経営難で潰れて以来、ずっと空き家になっていたという。

「こ、こんな立派な建物を……!?」

「ええ。出張専門も素晴らしいですが、お客様がいつでも来られる本店があれば、信頼度も格段に上がりますわ。わたくしの目に狂いはありません。この『指圧マッサージ』は、必ずやエターナルの新たな名物になりますわよ」

その商魂たくましい笑顔に、断るという選択肢はなかった。

数時間後、優斗たちは、自分たちの新たな拠点となる建物の前に立っていた。

「ここが……俺たちの……」

ヴォルフが、感慨深げに呟く。数日前まで地下アジトで暮らしていたのが、嘘のようだ。

中は長年使われていなかったため埃っぽいが、一階は施術院にするには十分すぎるほど広く、二階と三階は住居として使えるようになっていた。

「わぁ! 広い! 私、この角部屋が良いわ!」

「モウラ、ずるい! 私が先に目を付けてたのに!」

さっ-そく、モウラとエリーナが部屋割りのことで楽しそうに言い合いを始めている。

優斗は、そんな仲間たちの様子を微笑ましく眺めながら、建物の窓からエターナルの雑踏を見下ろした。

「すごいな……。俺、本当に、この世界で生きてるんだな……」

引きこもりだった自分が、今や異世界の巨大都市で、仲間たちと共に、一つの店の主となった。

優斗は、建物の入り口に、真新しい木の看板を掲げた。エリーナが木工スキルで彫ってくれた、温かみのある看板だ。

そこに刻まれた文字は――

『出張専門 癒し処 百狼堂』

それは、元・盗賊団が、人々を癒すプロフェッショナル集団として生まれ変わった、記念すべき第一歩。

そして、優斗がこの世界で、自分の足で歩み始めた、確かな証だった。

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