EP 27
百狼の再就職先
アジトの惨状と、悪びれもなく仲間との再会を喜ぶエリーナを前に、ヴォルフは完全に戦意を喪失していた。そんな彼の肩を、優斗がぽんと叩く。
「良かったじゃないか、ヴォルフ。強い女が好きだったんだろ? ああいうのが好みだったんだな」
「いや……勘弁してくれ。ありゃあ女じゃねぇ、化け物だぜ……」
ヴォルフが、心底げっそりとした顔で呟く。
「どうしたの? 優斗」
「ううん、何でもないよ」
エリーナの問いに、優斗は笑ってごまかした。そんなやり取りを遮るように、モウラが腕を組んでヴォルフの前に仁王立ちする。
「さてと。話は元に戻すけど、貴方たちのこと、どうしようかしら」
その鋭い視線に、ヴォルフはびくりと体を震わせた。もはや、この一行に逆らう気など、彼には毛頭残っていない。
「うっ……分かったよ! 約束通り、この『百狼』は今日限りで解散する! だから見逃してくれ!」
「駄目よ」
しかし、返ってきたのは意外な言葉だった。
「え?」
「駄目よそんなの! 解散なんてしたら、あなたについてきた手下の人たちはどうするのよ! みんな路頭に迷ってしまうじゃない!」
モウラの真っ直ぐな言葉に、ヴォルフはバツが悪そうに顔をそむけた。
「……けどよぉ。俺たちだって、好きで盗みを働いてるわけじゃねぇんだぜ? 他にマトモな仕事があったら、別だけどよぉ……」
その言葉は、エターナルの裏社会でしか生きられなかった者たちの、偽らざる本音だった。
その時、ずっと黙って聞いていた優斗が、口を開いた。
「――じゃあ、俺がヴォルフ達の働き口を探してやるよ」
「え……? 何だって?」
ヴォルフが、きょとんとした顔で優斗を見る。
「まず、ヴォルフ。君は強いし、この街にも詳しい。だから、俺たちパーティーの護衛として雇う。これからの旅の仲間だ」
「えぇっ!?」
「良いの!? 優斗!? この人、盗人なのよ!?」
エリーナとモウラが、同時に驚きの声を上げた。
「良いんだ。それに、ここにいる『百狼』のメンバーたちには、僕が“手に職”をつけさせてあげる」
「……何をさせる気だ?」
ヴォルフが、訝しげに尋ねる。優斗は、にっこりと、しかし絶対の自信を持って言い放った。
「僕の指圧とマッサージの技術を、君たちに教える」
「「「…………は?」」」
窃盗団のリーダーも、その手下たちも、そして二人のヒロインも。
優斗のあまりにも突拍子もない提案に、アジトに集まった全員が、ただただ呆然と口を開けることしかできなかった。
エターナルの裏路地に、伝説の治療院『百狼堂』が産声を上げる、ほんの少し前の出来事である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます