EP 28
ゴッドハンドの弟子たち
「しあつ……? まっさーじ……?」
ヴォルフが、生まれて初めて聞く言葉を、怪訝そうに繰り返す。その手下たちも、顔に「?」を浮かべて首をかしげるばかりだ。この世界に、体系化されたマッサージという文化は存在しない。
「まあ、百聞は一見にしかず、だよ。ヴォルフ、ちょっとそこに座って」
「あ? 俺にか?」
優斗は戸惑うヴォルフを促して椅子に座らせると、その背後に回り、肩にそっと手を置いた。そして、日頃の激務と戦闘で凝り固まった筋肉の、的確なツボを探り当てる。
「うん、こういうことさ」
ぐっ、と指に体重を乗せた、その瞬間。
「ぐぅぅっ……!? な、なんだこれ……き、気持ち良い……!」
ヴォルフの口から、驚きと快感の入り混じった声が漏れた。鋭い痛みが走ったかと思えば、次の瞬間には体の芯からじわじわと緊張が溶けていく、未知の感覚だった。
「ほ、本当ですかい、兄貴? そんなに……?」
一番近くにいた手下の一人が、信じられないといった顔で尋ねる。
「ああ、君も腰が悪そうだね。ちょっと失礼」
優斗はその手下の前に立つと、今度はその腰のツボをぐっと指圧した。
「はふんっ!?」
手下の口から、情けない声が飛び出す。
「き、きもぢいいぃぃぃ……! こ、腰が……腰が軽くなっていく……!」
そのあまりの気持ちよさに、屈強な盗賊はへなへなと床に崩れ落ちてしまった。
その劇的なビフォーアフターを目の当たりにして、他の手下たちの目の色が変わった。
「お、俺もやってくだせぇ、先生!」
「先生! わしも!」
「ははは、分かった分かった。でも、僕が君たちに教えたいのは、これなんだ。この技術さえ身につければ、君たちはもう盗みをしなくても、胸を張って生きていける」
優斗のその言葉に、アジトは一瞬の静寂に包まれた。そして、ヴォルフが静かに口を開く。
「……先生。俺たちに……教えてくれるか。その、神の指の技を」
「うん、もちろんだ。じゃあ、早速始めるから、みんな二人一組になって!」
優斗の号令一下、エターナルの地下アジトは、世界で最も物騒なマッサージ講習会場へと姿を変えた。
「そこじゃない、もう少し右だ!」
「いててて! 兄貴、力が強すぎやす!」
「うるせぇ! こうか!?」
ぎこちない手つきで互いの体を揉み合う、元・盗賊たち。そのあまりにもシュールで、しかし希望に満ちた光景を、モウラとエリーナは、微笑みながら見守っていた。
優斗がエターナルの街に蒔いた小さな種が、今、新たな芽を出し始めようとしていた。
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