ちょっと近くのユカイまで—4—

 たどり着いたのは、なにやらいかにもな魔王城的城塞だった。

「さぁ有希! やっちゃうのよ! 巨大隕石で城ごと潰しちゃいなさい!」

 物騒な物言いだ。だが長門ならVRでなくともできてしまうだろう。VRをやりすぎるといずれ現実の長門にもそんなことを言うかも知れん。

「まだ125文字しか書いていない。短すぎてキリが悪くなるため正攻法を勧める」

「そうね、163文字だものね、まだ。そうしましょう、正攻法で突っ切るわよ!」

「あまりそうメタいことを言うな」

 さすがにツッコまずにいられなかった。何文字だとか関係なく正攻法で行けよ。そして長門少しキャラがおかしくないか? VR前もウェブ辞典から引いてたりするし。

「そうだわ、古泉くん。お腹空いてる?」

「えぇ。貧しいもので三日ほどなにも食べていません」

「まだアトラクションが始まって三十分も経ってないだろ」

「ちょっとキョンっ! メタいこと言うなって言ったのはどっちよっ!」

「いや、今のは俺が悪かった。すまん!」

 一切誠意のこもっていない謝罪にハルヒすらも呆れてため息をつく。もしやこれが正攻法か?

「まぁお腹が空いてるならいいわ。魔王を倒したらたらふく食わせてあげるから死ぬ気で働きなさい!」

「おいハルヒ、腹が減ってるんなら食事を先にしたほうがいいんじゃないか?」

 ハルヒの不敵な笑み。俺は思うツボなことを言ってしまったのか。だが自覚はない。

「古泉くんはね、お腹が空いていれば空いている程強い超能力を使えるのよ! その種類はなんでも! サイキックでもテレパシーでもなんでもよ!」

 よかったじゃないか古泉。ちょっとは使い勝手よくなったんじゃないか?

「なにか出てきた。低級の魔物と思われる」

 長門の平たい声が脳内再生される。

「さっすが宇宙人、分析が早いわ。せっかくだからみくるちゃん、未来の武器で出てきたあいつらをコテンパンにするのよ!」

「みみみみみ未来の武器ですかぁ!? そそそんなの帯器許可がぁ…………」

 朝比奈さんが焦りを見せる。

「とりあえず行ってきなさい! 帯器とか知らないけどできないならみくるビームの出番よ!」

 ほんっとみくるビーム好きだなお前。確かにあの朝比奈さんが可愛かったのは認めるけどさ。

「みっ……みくるビーム……うぅ……」

 そもそも衣装が違うだろ。ウェイトレスだったしカラコンが必要だ。

「さぁキョン! 今思ってることをそっくりそのまま言ってちょうだい!」

「そもそも衣装が違うだろ。ウェイトレスだったしカラコンが必要だ」

 なんだその目は古泉おい。

「その通り! だが改良版みくるビームを発動するパーツは既にみくるちゃんの体内に埋め込まれているわ! だからカラコンも衣装も関係ないの!」

 俺の朝比奈さんになんつーことしてくれてんだ。そんなもん朝比奈さんの御身体に埋め込むんじゃない。

「あたしの身体にはそんなものが……」

「ちょっとハルにゃん! これ以上みくるをイジメるのは許さないっさ。例えハルにゃん相手でも容赦しないにょろよ」

 の、割には語尾が軽いんですが。

 まぁ鶴屋さんが間に入ったらよっぽど問題はないだろう。これ以上朝比奈さんがへにょへにょになることもあるまい。

「冗談よ冗談。なんにも埋め込んでないしこのカラコンをつければウェイトレスじゃなくってもみくるビームは撃てるわ。さぁ、ついでに鶴屋さんも連れて行ってらっしゃい!」

 ハルヒが指をパチンと弾くと敵地の中心に二人が移動し、朝比奈さんのか細い悲鳴が聞こえてきた。

「あたしたちも行くわよ! 有希! 途中の雑魚敵は邪魔だから魔王だけ残して残りは消しといてちょうだい!」

「了解した。魔王の間まで案内する」

 やはり長門は頼りになる。VRでも変わんないことなんだな。


 長門の的確な案内により数分で魔王の間にたどり着き、ファンタジーにあるまじき速度でクリアを果たそうとしている。

「ぐあぁっはっはっはっ! 我が名は魔王エンゼル! 貴様らは今死ぬためにここへ来たのだ!」

「魔王なのに天使ってなにかの皮肉かしら」

「ぬおっ……」

 明らかに効いていた。これぞ魔王って姿をしているのにそのメンタルで務まるのか。

 長門の周りの空気が渦を巻き始めてステッキに少しずつ集まっていく。 

「その名で産まれたのだから仕方なかろう、ですか?」

「その名で産まれたのだから仕方なかろう! ……ハッ!」

 なんかようやく超能力者らしいところを見せたな。しかしこいつは一度考えてから発言するタイプなのか、意外だ。

「涼宮ハルヒ、もう1789文字、時間がない。許可を」

「えぇ、もう1812文字だものね、やってお終い!」

 ステッキの上を漂っていた魔力かなんかの塊が消えたかと思えば魔王の身体を貫いていた。

「え゙ぇ!? 吾輩ボスなんだけど!? ラスボスだよ!?」

「無視しましょう。みくるちゃんたちのとこに戻るわよ」

 魔王討伐RTAの最速記録をハルヒにくれてやりたい。

 わーわー騒ぐ魔王をよそ目にその間の奥にある宝に目もくれず朝比奈さんたちが戦っている入り口へ急ぐ。

 結局俺はなにかしたか? いいや、なにもしてないね。

 そんなこと言ってるうちに2000文字を超えてしまった。巻きでいこう。

 入り口に戻るとボロボロでヘナヘナな白菜のような朝比奈さんとボロボロながらもまだまだ笑顔な鶴屋さんの二人だけが立っていた。正確に言うと朝比奈さんは座り込んでいるが。

 そんなこんなが終わって、古泉はたらふく飯を食い終わったタイミングでアトラクション終了の合図が聞こえた。これで一時間しか経っていないとは驚きだ。

「これは面白かったわね。今度はSOS団のみんなで来ましょう」

「そうだな」

 珍しく俺はハルヒに賛同できた。ハルヒがくじ引きのときに言っていた良い予感とはこのことだったのではないか。と、そうも思った。

 たまにはハルヒの遊びに付き合うのも悪くないな。

 それから閉園時間までは二人で様々なアトラクションを遊びまくり、閉園時間をすぎて駅が近いため電車で帰ろうとなって切符売り場に足を運ぶ。

「キョンの切符代もあたしが出すわ。タクシーで五千円も出させちゃったもの、このくらいの手当は団長として当然よ」

「いいのか?」

「いいって言ってるでしょ。あんたはその辺で待ってなさい」

 いつもなら怒号の一つや二つを浴びせてきそうだが今日はとことん機嫌がいいらしい。

「そんじゃお言葉に甘えて」

 なにかな、まだ夏本番までは一塁からホームベースくらい離れてるはずなのに少し熱い。

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涼宮ハルヒの遊乗 燈蒼 @hiao

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