第2話運命の出会い

フランク、起きなさい!」

​「起きてるよ、母さん!」

​「起きてるの?」

​毎朝、毎朝うるさいな。

運命的な出会いを果たしたあの日も、僕は母親のこの声で起きた。

ベッドから出ると、退屈な大学の講義と、きっと何も起こらないだろう今日の学園祭のことを考えて、すぐに考えるのをやめた。

顔を洗い、歯を磨いて出かける準備をする。

​「お母さん、仕事行ってくるから」

​「行ってらっしゃい」

「大学サボらずにちゃんと行くんだよ」

​「分かってるって」

​「ちゃんとしっかり勉強するんだよ」

​「はいはい」

​「お父さんがちゃんとあの世から見てるからね、真面目に生きないと、お父さん怒るからね」

​「早く仕事に行きなよ、遅刻するよ」

​「大学に行く前に、ちゃんとお父さんに行ってらっしゃいしなさいよ」

​「もう分かったって、しつこいな」

​「行ってきます」

​「行ってらっしゃい」

​ようやくしつこい母は仕事に行った。僕も朝食をサッと済ませ、父に「行ってきます」と声をかけて、家を出た。

​大学へはいつも電車で通っている。

乗り換えなしで地下鉄3駅分なので、割とすぐに着く。

​僕が通っているのは、特に特徴のないごく普通の大学だ。この大学を選んだ一番の理由は、家から遠くなく、通いやすいことだった。

僕は経済学部に所属していて、ごく普通の講義をとっている。

正直、3年生にもなれば、大学生活はつまらなくなる。

​友達に捕まり、学園祭を一緒に回る約束をした。

​「おいクロス、学園祭、一緒に回ろうぜ」

​「いいけど、午前の講義が終わったら文芸サークルの展示会で15時くらいまで時間取られるから、それ以降ならいいよ」

​「分かった。じゃあ、終わったら合流しよう」

​「分かった」

​友達とのやり取りで財政学の講義に遅れそうになったが、なんとか間に合った。

​僕は財政学の講義で教授の話を聞きながら、全く違うことについて考えていた。

​父さんは早くに死んだけど、悔いのない生き方ができたんだろうか?

亡くなったのが小学3年生の時のことだから、はっきりと覚えていない。

でも、犯罪組織の捜査中に命を落とすなんて、男としてはかっこいい。正義のために命を落としたんだ。

​それに比べて、俺の人生は・・・起きて、大学に行って、サークルで本を読んで、バイトして、家に帰って夕食を食べて寝るその繰り返しだ。

特別な正義も持っていないし、何かのために責任を負うこともない。

僕の人生は、まるで地べたで暇つぶしをしているようだ。

いかに自分の人生に何もないのかと考えていたら、講義が終わった。

​午前の講義が終わった後、僕は一応入っている文芸サークルの展示会に向かった。

主催者側としてパンフレットを配ったり、展示物の説明をしたり、少し掃除をしたりしているうちに昼を過ぎ、そろそろ友達と合流して学園祭を回る時間になった。

昼過ぎになってきたこともあり、少しずつブースが閉まってきていて、残るブースが限られてきた。

その中で、民間企業のエトワール商事が出しているブースがまだ賑わっていた。

僕と友達はそのブースに向かうことにした。

​向かっている途中、友達が言った。

​「知ってるかクロス、エトワール商事には黒い噂があるんだぜ」

​「なにそれ、しょうもな」

​「本当だぜ、少なくとも業界では有名なんだぜ」

​「はいはい」

​エトワール商事のブースに着いて間もなく、僕は雷に打たれた。

​その空間は、明らかにある一人の美人を中心に成立していた。

僕は、初めて恋に落ちた。

時は、彼女を見つけたレストランの中へと戻る。

僕は彼女から目を離すことができなかった。

​彼女は、僕の視線に気づいたようだった。そして、席を立ち、こちらに向かって歩いてきた。

​学園祭で初めて会った日は、ほんの少ししか話すことができなかった。

向かってくる彼女に、何を話しかけようか、頭をフル回転させたが、何も思いつかない。

心臓がうるさく脈打つ音だけが、耳の中で響いていた。

気付いたら彼女がもうそこに!

​「あれ、クロス君?」


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