甘い毒

@yasamu

第1話追憶と再会

ありがとうございました、またのご来店を。

バーのドアを閉め、僕は小さく息を吐いた。

「ハァ、この店にもいなかった。」

少し酔いが回ってきた。飲まなければよかったと後悔しつつ、次の店に行く前にコンビニに立ち寄ることにした。

「いらっしゃいませぇ」

​とりあえず水と口臭ケアのガムを手に取り、「バーコードで」と支払いを済ませる。コンビニを出て、僕は次の店のことを考えた。

「じゃあ、次のエトワール商事と関係のある店は、距離的にイタリアンバーだな。」

僕は、随分と多くの店を探し回ったが、いまだ成果は出ていない。このイタリアンバーで最後にしよう、いなかったら諦めよう。

僕が誰を探しているか?それは直ぐに分かります。

申し遅れました、僕の名前はフランク・ジェームズ・クロス、みんなにはクロスと呼ばれている。

年は21で大学生だ。

今、僕はバイトで貯めたお金を切り崩しながら、人探しをしているところだ。

もったいないけど仕方がない、などと考えながら歩いていたら、イタリアンバーに着いた。

「いらっしゃいませ、お一人様でよろしいですか?」

「はい」

「席へご案内します」

僕は店員さんにカウンター席へ案内された。

口が寂しいので、お水と一緒に買ったガムを取り出し、一枚口へ運んだ。

ガムをかみながら僕は、店内を見渡したが、探している人はいなかった。

その時、ちょうど店の人が注文を取りに来た、居なかったなら長居するつもりはない。

「ビールください」

「ビール一杯ですね、以上でよろしいですか?」

「はい」

おしゃれなバーだが、僕はあまりお酒に詳しくないから、ビールくらいしか分からない。飲んだらすぐに出よう。

あの時に連絡先を聞いていれば、こんなに苦労せずに済んだ上に、お金も減らなかったのにな、などと考えながら苦いビールを飲んで店を出た。

「ありがとうございました」

いなかった……

今の店にいなかったら帰ろうと思ってたけど、やっぱりもう一軒だけ探してみよう。

結局、僕はもう一軒探してみることにした。

次の店は、エトワール商事が提携している、高級食材を使うお高い店だ。大学生が行くのは多分場違いだろう。

おそらくグラス一杯飲んでも、そこそこの値段がするから行きたくないが、仕方がない。

唯一の救いは、エトワール商事が関わっているお店が、一つの地域に固まっていて移動にお金が掛からないことだ、などと考えながら歩いていたら店に着いた。

「いらっしゃいませ、お一人様でよろしいですか?」

「はい」

「席をご案内します」

店の内装は洋風のインテリアで、19時ということもあってか 大人達が食事していて多少の活気があるが、落ち着いた雰囲気がただよっていた。

僕は店員さんに、目立たない隅の席へ案内された。

席に着き、僕は店内を見渡して、そして息を飲んだ。

​僕が探していた人は、そこにいた。

​店内は、仕事終わりのサラリーマンたちが食事と会話を楽しんで賑わっていたが、彼女がいるテーブルだけは、まるで別世界のようだった。彼女と、おそらく彼女の部下であろう二人の男女が座っていて、彼女は店の人と何やら話し込んでいる。

​部下達は、片手にスプーン、もう片方にはペンを持ち、食事をしながら熱心に何かメモを取っているようだった。

その様子から、この食事は単なる会食ではなく、仕事の一環なのだとすぐに察することができた。

​ようやく会えた喜びと、彼女の圧倒的な美しさ、そしてその場を支配するような上品な佇まいに、僕はしばらく呆然と彼女に見とれていた。

​ワイングラスを片手に店の人と話す彼女の仕草は、どんな一瞬を切り取っても絵になるほど美しかった。落ち着いた声、知的な眼差し、そして時に見せる控えめな微笑み。その全てが、僕が何度も頭の中で思い返した、まさにそのものだった。

​しばらく呆然と彼女を見ていたせいか、彼女は僕の視線に気づいた。

​大学の学園祭で一度会ったきりだ。さすがに、たった一度会っただけの男に、ここまで追いかけられるのは気持ち悪かったか?


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