至高の西红柿炒鸡蛋を求めて

たかぱし かげる

注)これはトマトと卵を炒めたやつのはなしです

 西红柿炒鸡蛋がむっちゃ好きだ。

 どのぐらい好きかというと、たぶん中国料理でこれが一番好きかもしれないというぐらい好きだ。


 うん? あれ? そんなに好きじゃなくない?

 とか、思わないでほしい。めっちゃ好きなのだ。


 もしかして知らない人もいるかもしれないので軽く説明すると、西红柿炒鸡蛋は最も美味しい中国料理である。

 ちなみに読みは「しー・ほん・しー・ちゃお・ちー・たん」(無気音も濁らせない派)。

 日本語では「トマトと卵を炒めたやつ」と呼ばれている。


 正式名称ないんかーい。


 ともかく、これがとても美味しい。

 などと文章で読んでもよく分からないだろう。一度食べてみてほしい。美味しいから。


 中国へ行くと、だいたいまあ出てくる。美味しい。

 日本でも台湾料理屋を名乗ってる中国料理屋へ行けばだいたい食べれるのではないだろうか。知らんけど。


 そんな大変美味な西红柿炒鸡蛋ではあるが、日本ではそれほどメジャーではない(でも根強いファンはいっぱいいるぞ)。

 原因は、絶妙に地味だったこと(なんせトマトと卵を炒めただけの料理である)、呼びやすい名前がなかったこと(棒々鶏バンバンジーとか回鍋肉ホイコーローとか青椒肉絲チンジャオロースーとか勝ち組だよ)(なお、西红柿はトマト、鸡蛋は卵の意である)、中華料理化しなかったことが考えられるが、まあその辺の考察は本稿の主旨ではないのでおいておこう。


 さて、そんな西红柿炒鸡蛋だが(そろそろ名前を打つのが面倒……)、お察しのとおりそれほど面倒な中国料理ではない。

 まあ、言うて、トマトと卵を炒めただけの料理なのである(別に舐めてません!)。

 特殊な中華食材も香辛料も必要ないし、揚げろとか油通ししろとか包めとかいう無茶ぶりもない(そりゃもちろん中華鍋と強火力コンロがあったほうが上手にできるんだろうが)。


 そう、こんなに美味しい中国料理がご家庭で作れる(かもしれない)のだ!


 なんて素晴らしいのだろう。


 夏はトマトの季節。今年はなんかたくさんプチトマトをいただいた。

 これはもう西红柿炒鸡蛋を作るしかない!


 ところで、これまで(いろいろな店で)食べてきた西红柿炒鸡蛋は、どれも美味しいのだが、どれも微妙に違ったシロモノであった。

 よく知らんけど、トマトと卵を炒めたらそれが西红柿炒鸡蛋なのであって、それ以外の部分はそれぞれの秘伝レシピとかでできているのではないだろうか。知らんけど。


 はっはーん。さては日本で言うところの“にくじゃが”みたいなもんだな?(てきとう言うてます)


 ともかく、トマトと卵を炒めるという基本ルールを守れば、あとは自分の中で最も素晴らしいと思える料理を産み出せば、それが至高の西红柿炒鸡蛋となるのだ!(大丈夫、自分でも正直なに言ってるかよく分からんと思ってる)


 ともかく(二回目)、今夏わたしは至高の西红柿炒鸡蛋作りに励むこととなった。

 さあ、美味しい西红柿炒鸡蛋をお家で食べよう♪


【お願い】筆者の料理スキルレベルはマイナス値ですがトマトと卵を炒めるぐらいはできるので大丈夫だと思いますが万が一ということもあるので薄目でお読みください。


 最も美味しい中国料理である西红柿炒鸡蛋のレシピは、日本においても多数公開されている。

 嘘だと思うなら「トマトと卵を炒めたやつ」で検索するといい。たくさん出てくる。


 なので、そういうレシピにしたがって作ってみればいいのだろう。が。

 なんか、いっぱいあって、どれがいいのかよく分からない。

 しかしまぁ、どのレシピも要約すれば「トマトを炒める→卵を炒める→できあがり」という感じである。


 よし、トマトを炒めて卵を炒めよう。


 などと書くとご不安になられる読者様もいらっしゃると思うので、たかぱし至高の西红柿炒鸡蛋レシピをきっちり細かく丁寧に書き出してみよう。


 ①プチトマトを8個ぐらい切る(もらったのが縦長楕円のプチトマトだったため、四等分にしたら素敵なくし型になった。さて、この形のプチトマトがなくなったらどうすればいいのだろう……? 分からん)

 ②卵2個を溶く。

 ③卵に調味料で味をつける。塩少々とマヨネーズいっぱい。マヨネーズは思いきっていれよう。なに、油だから入れすぎてもなんとかなる(と思う)。困ったらマヨネーズだ。マヨネーズはすべてを解決する。

 ④油をひいたテフロン加工フライパンで①のトマトをIHコンロを使い炒める。

 ⑤トマトを炒めるのに飽きたら溶き卵をわしゃーっと入れる。

 ⑥ふわっと固まったところでくしゃっと混ぜて完成だ!!


 シミュレーションは完璧。ふわふわ卵とフレッシュトマトのトマトと卵を炒めたやつだ。

 いける。と思った。


 いった。


 あんまりいけなかった。


 なにがいけなかったかというと、トマトは非常に美味しいのだが、いかんせん卵がふわふわでないというか、ぼろっとしているというか、どかっとしているというか、マヨネーズ味は悪くないのだが、決してこれは思い描いていた至高の西红柿炒鸡蛋ではないシロモノであった。


 どう考えても卵の焼き加減の問題である。

 そこさえなんとかなれば、なんとかなる気がする。

 そう、卵を「ふわっと固まったところでくしゃっと混ぜる」のは非常に繊細な技量の求められる工程なのだ。

 料理下手にはちと荷が重い。


 諦めるべきか?


 否。


 これは自慢だが、たかぱしはこれまでの人生でオムレツを2度も成功させたことがある人間だ。

 やってできないということはないはずだった。


 オムレツ成功体験から経験を抽出し検討した。

 溶き卵をまともに焼くために絶対的に必要な要素は次の二つである。


 火力。

 忍耐力。


 この二つを欠くと、だいたい「オムレツ」は「焼かれた卵」になる(分かってても難しいのであまり成功しない)。


 というわけで、更新したレシピがこちら。

 ①卵2個を溶く。

 ②卵に調味料で味をつける。塩少々とマヨネーズ。マヨネーズは卵をふわっとさせる効果があるのだ!!たぶん。

 ③プチトマトを8個ぐらい切る。

 ④油をひいたテフロン加工フライパンで③のトマトをIHコンロを使い炒める。

 ⑤トマトが炒まって、なおかつフライパンがちんちんであることを確認したら溶き卵をわしゃーっと入れる。

 ⑥ふわっと固まるまでじっと我慢し、しかるべきタイミングでくしゃっと混ぜて完成。


 いかんせんIHコンロはフライパンの熱回りにムラがある。気がする。

 真ん中は固まってるのに周りはぐじぐじしてて、こりゃまずいってぐじぐじいじるから、卵がふわっとならないんである。たぶん。

 これが「火力」という要素の難しさ。

 いつも越えられない壁である。

 で、この解決法が、あんまり解決はできていないのだが、「とにかくフライパンを熱々状態にしておく」ことと、「せめて卵を冷蔵庫温度から室温温度へ戻しておく」ことである。


 あとは、実際に焼くときに、焦っていじると卵がぼろぼろになるので、焦らずしかるべきタイミングで混ぜること、これに尽きる(忍耐力)。

 しかるべきタイミングというのは、残念ながら分からない。それが分かっていれば私はオムレツマスターである。聞かないで欲しい。分かる人に聞いてください。


 問題点は分かったのだから、あとはしかるべきタイミングを掴むため試行錯誤を繰り返すのみ。


 2回作った。


 あかんかった。


 どうしても卵がふわっとならない。

 ふわっとならないのだ。


 理想の卵は、ふわっととろっとしていて、適度に固まり、適度にトマトと絡んでいるものである。

 ……なんか、ごっそり固まって、ふわともとろともしないんだよなぁ。


 思えば、過去に成功したオムレツ2例も、形がオムレツの近似値になったので成功判定をもらえた(自分で自分に)が、中は決してふわとろではなかった。

 あれ。もしかして。たかぱしにはふわとろ卵を焼く才能が欠如しているのでは?(あるいは卵がふわとろに焼けない呪いにかかっている可能性がある)


 ………それでも、私は、至高の西红柿炒鸡蛋を作って食べたい!

 だって、愛してるから…………!


 さいわい、もらったプチトマトはまだごっそりとある。

 至高の西红柿炒鸡蛋作り続行だ!


 ところで、今まで努めて無視していたのだが、世に公開されている西红柿炒鸡蛋レシピの中には、「先に卵を軽く炒め取り出す。トマトを炒める。卵を戻して絡めて完成」という、例のアレをしているレシピがあった。


 たまに炒め物系のレシピで、一旦取り出して後で戻すタイプ、確かにある。が、たかぱしはこれ懐疑派である。

 いや、なんか意味はあるんだろうけど。あるんだろうけど。本当に必要なのか、これ? え、絶対? だって、どうせ合わせて炒めるんじゃん。

 なぜ取り出す? なぜ? めんどくせー。


 というわけで、正直やりたくはない。

 だが。ことは愛する至高の西红柿炒鸡蛋である。

 もしこの方法で、たかぱしであっても理想のふわとろ卵が作れるというのなら。

 やむなし。


 試した。


 ダメだった。


 なんか、こう、ね。先に炒めた卵を一度取り出すわけじゃん? うまく取り出せる状態に焼いたらばっちり卵焼きだったわけね。

 で、炒めたトマトの中へ戻しても、卵焼きは卵焼きだったの。

 トマトと卵を炒めたやつを作るつもりでトマトを炒めたやつと卵焼きを作ってしまったの。


 このスタイルは多分無理。あと精神衛生にもよろしくない。


 やめよう。


 しかし、この試行は無駄ではなかった。

 一度やってみて、あるひらめきが浮かんだのだ。


 卵じゃなくて、トマトを取り出したらいいんじゃね?


 なに言ってるんだ、と言わないでいただきたい。

 思ったのだ。

 これまで炒めたトマトの中へ卵を入れてきたが、卵だけの方が絶対焼く難易度は低い。

 なに言ってるんだとか言わないでいただきたい。

 こちらは真剣だ。


 シミュレーションはこうだ。

 まずトマトをしっかり炒めて美味しい状態にし、取り出す。

 次になにも入っていないちんちんフライパンへ卵を投入する。

 ふわっと固まる瞬間まで大人しくじっと待つ。

 ここぞというタイミングでトマトを戻す。卵がトマトを包み込む。

 ざっとかき混ぜて出来上がり。


 やってることは同じなのだが、なんかうまくいく気がする。俄然する。


 やってみた。


 いまいちだった。


 原因はさっぱり分からない。想像上は絶対うまくいった。

 実際は卵がふわっとトマトを包んでくれなかった。

 これまでの西红柿炒鸡蛋の中ではまあまあと言えなくはないけど、こう、なんていうか、うまいことトマトと卵が絡まっていない。あくまで他人だ。


 至高の西红柿炒鸡蛋ではトマトと卵にもっとマリアージュして欲しい!


 この方法も、極めていけば成功するのかもしれないが、まあ取り出すの面倒だし、やめよう。

 初心に帰るべきである。

 普通にトマト炒めて卵炒めるのがいいに違いない。

 と悟った。


 ところで、ここまでずっとふわとろ卵についてのみ言及してきたが、至高の西红柿炒鸡蛋にはもう一つ重要な要素があることに試行錯誤の途中で気づいたの書いておこう。

 それは、卵の味付けはしっかりしたほうが美味しい、である。

 そもそも西红柿炒鸡蛋はトマトと卵の旨みを味わう料理だ。であるから、味付けはごくシンプルな方が絶対に美味しい、と最初は思った。

 しかし、何度も作っているうちに認識を改めた。

 卵にしっかり味がついていれば、ちょっと卵が失敗してても美味しく食べられるのだ、これが。

 というわけで、卵にはしっかり味付けをしよう!

 具体的にいうと、塩少々はこれまでショイショイぐらいだったが、これをショイショイショイショイショイショイぐらいやっちゃっても大丈夫だ。

 マヨネーズはもともと多めに入れていたが、恐れず多めにむにゅるるると入れよう。溶いたときに塊で浮かんでも特に問題ない。

 あと、あるならコンソメ顆粒とかちょっと入れるといいかもしれない。コショウ一振りもいいだろう。

 念の為言っておくが、こちとら大真面目にこれを書いている。


 とまあ、こんな感じでメキメキと料理スキルも上がり、至高の西红柿炒鸡蛋へ近づいてきた。

 あとはもう火力と忍耐力の問題である(あれ? もしかして、一歩も進んでない?)。

 試行錯誤あるのみ。


 いい加減そろそろ付き合いきれないとお思いの読者さんもいらっしゃることと思うので、ばっさりネタバレといこう。

 果たして至高の西红柿炒鸡蛋は完成したのか。


 まあ、そこそこいい線いってる西红柿炒鸡蛋がついに昨日できあがった。

 そのレシピがこちら。


 ①卵2個を溶く。

 ②卵に調味料で味をつける。塩ショイショイショイショイとマヨネーズもっさり、コショウ一振り、顆粒コンソメ小指の爪ぐらい。

 ③縦長プチトマト6個を4等分に切る。

 ④油をひいたテフロン加工フライパンで③のトマトをIHコンロを使い炒める。

 ⑤トマトが炒まってフライパンがちんちんであることを確認したら溶き卵をわしゃーっと入れる。

 ⑥ふわっと固まるまで絶対に我慢する。

 ⑦ふちが固まってきたら周りからそっとトマトとマリアージュさせる。

 ⑧なんかいい感じになったら完成。


 このレシピでいろいろな条件やらタイミングやらが奇跡的にかちあうといい線いってる西红柿炒鸡蛋が作れる。ようだ。たぶん。

 なお、トマトの数が減っているのは、もらったプチトマトがもうあとそれだけだったからだ。

 ありがとう、トマトをくれた近所のおばあちゃん。ぎりぎりそれなりに成功しました!


 プチトマト100個以上(と卵数十個)を費やして追い求めた至高の西红柿炒鸡蛋。


 美味しかったけど、たぶん店で食べた方がいい。

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