スライム、成長す。【弱者の勇気】

ronboruto/乙川せつ

勇気と誇り。

……平和だなぁ。


俺とちなさんが結婚して三年が経過した。

勇者が上手く言ってくれたのかあれ以降森に入ってきた人間はいない。


俺達は森と、動物や魔物たちと共に暮らしていた。


あ、ツリーハウスじゃなくて頑張って作った豪邸で。


「マルさーん!」


『はいはーいっ!』


その時まで二人で平和だった――――――、そう。


……その時までは。



「きゃっ……!」


『な、なんだ⁉』


周囲に吹き荒れる暴風。それは森を揺らし、俺達に襲い掛かる。


……おかしい。


(小さな風すら感じなかったぞ……いきなり湧いて出やがった⁉)


……ゾクッ。


悪寒。勇者以来久々に感じたそれは、圧倒的強者の気配。


―――――おいおい、勘弁してくれよ。


「マルさん、あれ! ドラゴン――――――!」


『マジかよ……なら、これを試してやるよ!』


あのドラゴンから感じるのは刺すような敵意。これが友好的とは思えねーな!


だから俺は守るために使う。


この力を。魔物だけに許された《闘気》――――〝漆黒闘気〟‼


丸っこい自身の肉体から黒いオーラを全面開放。魔法が使えなくても、この身体強化で何とか……なる相手じゃないかも。


『そこのスライムよ。我の声が聞こえるか?』


『えっ――――――まさか、あのドラゴン⁉』


「喋るドラゴン……上位竜アークドラゴン


マジかよ、俺あの下級竜レッサードラゴンにもビビってたんだぞ。勝てる相手かなコレ。


『ドラゴン、お前みたいな最強種が俺に何の用だ!』


半ばヤケになって返したその言葉に竜は――――――、


『なぁに、勇者から面白い魔物がいると聞いてな……力を試してやろうと思ってな』


……ありがたでもない迷惑!


『あーそうかい! じゃあ力尽くで迎えたほうがいいみたいだな!』


「ちょっ、あなた……もう。売り言葉に買い言葉って言うけど、しょうがないわね」


まったく、そういって付き合ってくれるんだよな。


ありがと。


『よろしい。ならば――――決闘といこうか!』


ドラゴンの宣言で俺たちはそれぞれの愛剣を抜刀する。俺はきりさき丸に漆黒闘気を纏わせ、ちなさんは同じように精霊力と魔力を。


『ほぅ、武装付与まで会得しているとは……正しくスライムらしくないスライムよ』


『褒めてんのか? じゃあお礼は――――――コイツだ』


全身をバネのように圧縮して一気に開放。それを上空への推進力へと変換する。


『〝螺旋天翔〟』


天へと舞い上がり、竜の腹部へと接近する。ここまで近いなら、お見舞いしてやるとするかな。


〝暗黒剣〟


全身の力と跳躍のエネルギー、そして漆黒闘気を織り交ぜた秘剣。


『今だ、ちなさん!』


「OK♪ 精霊たち、集まって――。いくよ、光の刺突。《精霊光刺突撃アル・フォトングレイズ》!」


ナイス判断。俺の暗黒剣と同じ場所に炸裂させたな。……でも。


『……無傷とかマジかよお前』


『ああ……流石に響いたがな』


涼しい顔で言われてもムカつくだけなんだよなぁ……!


だから、まだ終わらねぇ!


ドラゴンの腹を踏み台に更に高く飛ぶ。


――――――もっと、もっと高くだ!


『では、今度はこちらの番だな』


『げぇ⁉』


氷の息吹ブレス―――――、鱗の色から予測はしてたけど、やっぱり氷雪竜アイスドラゴン


つまりコイツは、上位アークの中でも更に上位の……上位属性竜エレメントドラゴン


くそっ、嫌な予想ばっか当たるな。


ブレスに触れたら終了の、致死の攻撃。一瞬で凍っちまう……。


そしてその息吹は俺に向かっていて――――――、なら。


(吹き飛ばす!)


『暴風閃!』


あの魔法使いが煙を吹き飛ばしたように、雪の風なんざ―――――!


『邪魔だぁ! 〝唸れ〟、きりさき丸!』


そして、きりさき丸に氷属性を付与。これで魔法属性は同じ。


装填・開始。――――完了。


属性、氷。認証、魔法属性適合。刀身進化。刀身適応。


『〝雪氷蜻蛉〟』


『なんと! 我の属性を喰ったのか……。面白い武具だ、是非調べてみたいものだ!』


『なら受けてみな、この一撃を――――――!』


「援護するわね! 灼光連閃フォトン・アトリック!」


氷に対する効果的属性は火。炎の精霊での援護射撃は実にありがたい。


『ありがとう、ちなさん――――――!』


そして対角属性以外で効果的な魔法属性は、全く同じ魔法のみ。


つまり、剣には剣。魔法には魔法。氷には――――。


『氷だぁああああああああああ‼ ――――《氷華一閃》!』


天空からの重力落下ものせたきりさき丸の上段斬りだ。如何にドラゴンといえどもこれを受けてただでは――――――!


『いい、一撃だぁ……!』


『ウソ、だろ⁉』


確かに竜は地面に墜ちた。だが、それ以外に傷が見当たらなかった。


よく見てみれば、少し斬撃痕が……。


『クソッタレ……他にどうすれば――――』


「マルさん、私に考えがあるわ」


『え、マジで⁉』


「天叢雲よ」


『……そうか。アレならもしかして……いやでも、アレは二人とも力を持っていかれる。効かなかった場合、やばいぞ?』


「でも他にある?」


『それを言ってくれるな』


「やりましょう、私たちはまだ始まったばかりなのよ。あんなトカゲに負けてられないわ!」


トカゲって……本気でキレてんなぁ。


まあでも、俺も結構怒ってる。


ちょっとぐらい、痛い目見てもらわないと……割に合わねぇよな。


俺達の平穏壊しやがってよぉ!


『一つ問おう!』


「『……?』」


竜の問いは、俺達に確かに響く。


『貴様らは何故、共に居る! 人間と魔物の共存など、本気で言っているのか!』


『「……ふふっ」』


俺達は見合い、笑うしかなかった。


何故だって?


そんなの、簡単じゃないか。


『愛してる以外に、理由なんていらねーだろ』


「それに共存だって……きっと出来るよ、私たちがこうなんだもん!」


『ああ、例え何百年、何千年かかったとしても…………俺達は諦めない!』


『……それが、修羅の道だとしてもか』


「上等だよ!」


『ああ、それが俺たちの未来みちだ』


『……よろしい、勇気ある者たちよ。ならば我の力を超えてみろ、それが出来なければ弱肉強食のこの世界で王道を貫くなど不可能だ!』


『……ちなさん、見せてやろうぜ……俺達の、王道ってやつをさ』


『うん。それと愛情と……勇気を!』


勇気。


確かに、今最も必要なことだ。最弱スライム強者ドラゴンに挑むのだから。


弱肉強食を引っくり返して、勝ってみせる。俺達二人の力で。


……いいや。ちょっと違うかな。


最弱、スライム、強者、ドラゴン……それを認めない。


たとえ己が最弱の種族であろうとも、たとえ敵が最強であろうとも!


俺は俺に……スライムという種族に誇りを持つ!


「マルさん、往こう。力を合わせて!」


『……ああ……いこう!』


精霊力、魔力、神聖闘気、漆黒闘気。


魔力波長、適合。 術式解明、完了。 術式構築、完了。 闘気適応、完了。


闘魔融合確認。


剣技錬成。


互いに異なる四つの力を錬成し、剣と成す!


「『王剣・天雷天叢雲テンライアマノムラクモ』」


『……にひひっ』


竜の笑いは小さなものだった。だが、確かに聞こえた。


『ガァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!』


「『はぁああああああああああ――――――ッッ!!!!!!!!!!』」


戦いはそこで終わった。


竜によると、ホントに試しに来ただけらしい。


たまに来るからと言われたが、戦いは勘弁してほしいもんだな。


……ったく、言っちまったな。


愛してるってよ。

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