第3章その7

泣き続けるクロの所に、今迄肩を支えられていたコオが近づいた

「違うよ クロ、コオも今分かったんだ、阿弖流に言われた事を思い出したんだ、誰が何の使命を与えられたか阿弖流為は全部わかってんだよ、今 誰を生かすべきかってね、きっとリヨウも分かってた」

そう言って割れた黒曜石の半分をクロに渡した

クロはそれがリヨウの面の石だと分かって握りしめ

額に押し付けた

「蝦夷はみんな、ただこの国を守ってる訳じゃ無く、善くする為に守るんだ、その為にはコオもクロもサクもまだ生きなきゃ駄目だ、役目を果たして無いって…だから神に生かされたんだ

役目を果たすまで生きて突き進めっていってるんだよ、いつか神がKATANAを取りに来るまで、この土地の為に生きるんだ!どこに居たってね」

半分の黒曜石を見つめるコオの顔が、大人の顔になっていた


田村麻呂が名乗った

「坂ノ上田村麻呂である、阿弖流為を戻せず済まなかった、二度とこの地で争いを起こさぬと阿弖流為

に約束をした、戦いはせぬ」

頭を下げながらそう言った

「分かっている、お前がこの地を治めるなら、蝦夷は更なる北に向かう、ただ残りたい者、この地を守りたい者は、残してやりたい、それが叶うなら館までの胆沢は お前になら渡す」

マナは頭として、阿弖流為の思いを代弁した

「わかった、蝦夷の民も大和の民も別け隔て無く、この地にいる者は私が必ず守る、約束する」

田村麻呂が言うとマナは

「全ての民と話す、民達にも覚悟がいる、皆の決断の為少し時をくれ」

そう言って北の空を見上げた

「とと様これで良いのですね」

マナに強い北風が吹き、まるで阿弖流為が返事をし

た様に、挿していた銀の簪を揺らした


翌日からマナは、まず今各部族を仕切る者達を集め

これからの事を話し合った

クロには阿弖流為からの言伝を伝え、大和の奴婢2人を付け、恩人ゲンの面も持たせ 西側の海を目指すようにと言った

奴婢の1人は妻になったミウ、もう1人はやはり

神事の家柄で、囚われた時に恐ろしい思いをして

記憶を無くしたが、神楽舞だけは体が覚えていて踊ることの出来る、皆からミコと呼ばれる女だ

西側から佐渡ヶ島を目指し、そこから隣のあわしまに舟を進めさせた


そして共に北に登ると言った者を全て率連れて出立する日を迎えた

出立の時には田村麻呂が

「多賀城の国守は解任した、多賀城の領地から胆沢までは直接私が治める」

そう言って見送ってくれた、


マナ達はまず、日の昇る東を目指した

トドガサキという1番東の地だ、地元の海の民に

「もっと北に登ると、海の先に更なる大地が有り、もっと東も北も果てしなく続く」

と教わった

ばば様は体の不自由になった者や年寄りと共に、此処に残ると言った

「この地でKATANAの為に祈り、我らで出来ることをやって生きていく

マテルと別れるのは辛いが、日高見とKATANAの為には、この辺りにも蝦夷の拠点が有った方が良いであろう、蝦夷の未来の為 足手まといは、ばばが此処で請け負う」

そう言った、残る蝦夷達もばば様に感謝して従い、快くマナ達を送り出した

翁ばば様と沙華族の者達、青龍族の生き残り、藤族の女達は 田村麻呂に頼んで胆沢の離れに置いてもらい、こそに留まり田村麻呂の世話をする事にさせてもらった


マナ達は、ばば様達と別れ 北を目指した

かなりの道のりだったが、まさに北の果てと言える

海岸線にたどり着いた

そこはロクンデウ・マという港のあるところだった

ロクンデウ・マに来たのはマナとマテル、タオとサクが率いる桜族、コウキが率いる若い橙族、それに竹族のノエと、藤族の数人の若者だ

マナは今まで以上に厳しい環境になると思い、

ばば様が言った様に若い者達だけを連れて来たのだ

一旦そこを宿所に決めて、暫く生活する事にした

皆で協力して幾つかの小屋を建て、集落を作った

タオが身籠ったのだ

土地の民は皆穏やかで、身重の居る蝦夷達を温かく受け入れてくれた

高い山が無く、更なる北の大地が分かるか心配だったが、マナの目にも海峡越しにはっきり陸地が見えた

秋も終わりかけ、凍てつく冬はもうそこまで来ているとヤマセが吹いた

皆で急ぎ越冬の準備に掛かっていた

そんな中、サクは港に北の大地から舟が来るのを見つけ、船頭に頼み戻り船に乗せてもらい北に渡った

北の大地には、言葉のよく分からない部族が沢山住んでいるのが分かった

そして何より嬉しかったのは、その大地には大きな山桜の木が沢山有ることだった

サクは木の名前を聞いたが言葉がわからず、タオに

「よく分からないが、カリンパニと言った気がする、子供が産まれたら一緒にカリンパニのご神木に挨拶に来ると伝えて来た、行こうな!」

と嬉しそうに言った

「海では沢山の魚が捕れて、皆で分けるんだ、

熊も鹿も居たぞ、きっとうさぎも居るな」

そう言いながら、北の部族に分けてもらった魚を焼き始めた

「まだまだ北に登れる、神の大地は果てが無いのかもしれないぞ」

と お腹の目立って来たタオに食べさせ、自分はその部族が作ったという白い酒を飲んだ

「『カムイトノト』って言ってたなぁ 日高見のダクロウも上手かったなー、タオ飲んでみるか?」

そう言って笑った

「バカ!はらの子が酔うわ」

タオはそう言って美味しそうに魚を食べていた

                 つづく







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