第5話 最初の冒険の終わり
Side:鍛冶職人スケルトン親方
朝になり、坊主と交代。
全身筋肉痛じゃな。
痛みの感覚が生きている証明。
嬉しくもあり、うっとうしくもある。
【鍛冶職人:坊主、痛いのはわしも感じてる。あと少しじゃ。頑張るんじゃ】
「はい」
足首に激痛が走る。
グキっという音がわしの脳内に聞こえた気がした。
素人が森の中を歩くのはこういう危険がある。
疲れてくると特にこうなり易い。
「師匠、足首を捻ってしまいました」
【鍛冶職人:言わんでも痛みで判る。わしはポーションの類は持っとらん。自分でないなんとかせい】
「無理を言われても困ります。師匠の所に転がり込んだ時だって、パンツ1枚です。薬もポーションもお金も持ってないです」
【鍛冶職人:知っとるわい。魔力操作の技術を教えてやろうかの】
「是非!」
【鍛冶職人:全ての基本にして奥義じゃ。これができるかできないかで、かなり違う】
「おお、早く教えて下さい! さあ、さあ、さあ!」
【鍛冶職人:痛い所に魔力を移動させるんじゃ。目標があるから分かり易いじゃろ】
「できません!」
【鍛冶職人:そうじゃろな。じゃが、スキルの使い方は工夫次第。職人魂のスキルで魔力の支配権をわしに渡すのじゃ。手本を見せてやるわい】
「【職人魂】魔力、師匠」
【鍛冶職人:こんな感じじゃ】
「痛みがほとんどなくて、足ががくがくしたたのが嘘のようです」
【鍛冶職人:しばらく感じているがよい】
1時間ほど歩いた。
「【職人魂】魔力、キャンセル」
魔力の支配が坊主に戻る。
【鍛冶職人:そら、試してみるんじゃ】
「ぐぬぬぬ。難しい。ぐおっ。とりゃ。動けよ。この分からず屋。動けったら動け」
【鍛冶職人:イメージじゃ。魔力はイメージに反応するんじゃ】
「おおお。少し動いた。ふんぬ。凄い! できたちゃった! でも、師匠ほどじゃない。痛みが1割ぐらい減っただけな気がします。師匠のはほとんど痛まなかったのに」
【鍛冶職人:当り前じゃ。わしは名人級じゃぞ。さあ、街まで修行じゃ】
それにしても、おかしいわい。
坊主が貴族で魔力量が多いとは知っているが、底なしじゃな。
魔力量の才能かの。
「師匠、全然上達しないんですけど」
【鍛冶職人:才能がないんじゃな。坊主、魔力量は多い方か?】
「普通ですけど」
うぬ、なぜじゃ。
そうか、なるほどな。
領民の物は全て領主の物、領主の物は領主の物。
ある貴族の言った言葉じゃ。
わしは坊主の領民なのじゃな。
坊主はわしの魔力を使っておる。
スケルトンになって、成長して魔力を集めたからじゃな。
モンスターはそういう生き物じゃ。
森を抜けた。
草原を歩く。
ずぼっと、片足が穴に落ちる。
【鍛冶職人:ウサギの穴じゃな。魔力操作の達人なら、地形把握も可能じゃ。わしはできんが】
「師匠が出来ないのに、僕が出来るわけないでしょう。ウサギさんごめん」
【鍛冶職人:ホーンラビットだったら、体当たりされてたな。常に注意じゃ。追っ手があれで諦めたとは思えん】
「気をつけます」
【鍛冶職人:街が見えたぞ。ええと、なんて街じゃったかな】
記憶を思い出す。
◇◆◇
シュパルゲルと辿り着いた街はたしかここだった。
門の所でシュパルゲルが手続を終える。
「ここでお別れだ」
「ああ、頑張れよ。シュパルゲル、また会おう」
「またな」
シュパルゲルが街に入っていった。
この街でシュパルゲルとわしはやらかして、悪評が立ったんじゃな。
「次! 身分証!」
わしの番だったが、最初のつまづきじゃったな。
「ないよ」
「足税は銅貨5枚だ!」
「ないよ」
「この貧乏人が、立ち去れ!」
思い出したぞい。
街の名前はシャカール。
無法都市シャカールじゃな。
わしは街に入れなかったんじゃ。
ここで諦めるようなわしではない。
街の子供がしないような遊びを知っとった。
わしが村で発明した遊びもある。
大層な発明ではない。
きっと、世界のどこかで同じことをしてる奴はおるじゃろう。
その遊びとは葉っぱワイバーンじゃ。
葉っぱを切ってワイバーンみたいな形を作る。
上手く作るとこれがなぜか、良く飛ぶんじゃ。
葉っぱなぞ、木さえあればどこにでもある。
さっそく作った。
道端で遊びながら。
「葉っぱワイバーン、ひとつ銅貨1枚!」
声を張り上げた。
「あれ、ほしい」
食いつく子供もそりゃいるわいな。
見慣れない遊びじゃから。
銅貨20枚ほど稼ぎ、楽々と街に入った。
わしとシュパルゲルの最初の冒険はこれで終りじゃ。
再会してからの冒険も酷かったのう。
◇◆◇
「次!」
坊主が街に入れなかったら助けてやろう。
「はい」
「親はどうした?」
「勘当されまして」
「見た感じ、鍛冶屋見習いだな。手配書にも載ってないし、通ってよし」
【鍛冶職人:待った! 足税は? わしの苦労は?】
「足税という物はないんですか?」
「廃止されてだいぶ経つな。ようこそゲムゼへ」
【鍛冶職人:街の名前が変わっとる。千年近く経てば、そりゃ変わっても不思議はないのじゃが。悔しい】
見た感じ、無法都市と呼ばれていた面影なぞ欠片もない。
犯罪組織が街を牛耳っていたんじゃがな。
シュパルゲルに犯罪組織は滅ぼされたと聞いた。
確かに酷い街じゃった。
スラムもなくなっとる。
贔屓の店なんぞ、ひとつも残っとらんじゃろな。
年月の流れはこんなにも残酷なんじゃな。
わしの記憶の中にしかもはや存在せんのか。
いや、あの殺し屋は死神鍛冶師の名前を憶えていたから、何か残っとるじゃろ。
探してみるとしようかの。
坊主の暮らしの面倒もみてやらにゃならん。
鍛冶工房なら、何とかなるじゃろ。
わしの作った品を売っても良いし、坊主を弟子入りさせても良い。
新しい始まりの予感がするぞい。
この高揚感は長らく忘れておった。
どんな形であれ、生きておるって素晴らしいことじゃな。
――――――――――――――――――――――――
◇年表◇
魔王歴 元年:
魔王歴 16年:
魔王歴 77年:
魔王歴 545年:
勇者歴 元年:
勇者歴 139年:
勇者歴 460年:
新魔王歴 378年:
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