第4話 駄魔剣シャイセ

Side:鍛冶職人スケルトン親方


 そう言えば、弟子に才能が皆無な奴がおったな。

 名前はそうじゃ、ドゥムコプフじゃった。

 1ヶ月も経たんうちに逃げて破門にしたから、覚える必要もないじゃろ。

 確か……。


       ◇◆◇


 思い出した。

 その時、ドゥムコプフに見せてやったのはこれじゃ。


「師匠、どんな剣を打つんですか?」

「だから、お前は駄目弟子なんだ。そんなの最高の剣に決まってるだろ。常に最高を目指す。そこに座って見とけ。まあ100分の1も理解できないだろうがな」


 ドゥムコプフの目が、俺への怒りに染まった。

 だから、駄目なんだ。

 好奇心でキラキラした目をしてない奴は伸びない。

 見下して軽蔑してれば、俺より上かも知れんがな。

 そんな弟子には一度も出会ったことなどない。


 スキル吸収スライムの核。

 アイアンタートルの甲羅。

 鉄と、糸。


「【魔鍛冶】」


 金床に材料を置いて、ハンマーに魔力を込め、ひたすら打つ。

 この頃はわしも若かった。

 今なら、金床とハンマーなぞ使わずに魔鍛冶が可能じゃ。


 思い出したが、赤面物の記憶じゃな。

 打つ場所を何度も外しておる。

 ドゥムコプフに偉そうに言ってたのに情けない。


 こんなにはっきり思い出せるのは魂の記憶だからじゃろう。

 全く恥ずかしい。

 でき上がった剣は駄剣も良いところじゃ。


「師匠、剣の銘は?」

「魔剣」

「それだけですか。魔剣メフィストとか何かないんですか?」

「この剣に並び立つ魔剣などない。他の魔剣は全て偽物。これは本物だから、魔剣という名前だ。唯一の魔剣。これ以外の魔剣など認めない」


 魂を弄るのが危険でなければ、恥ずかしくて消したい記憶じゃ。

 思い出すのが、眠気覚ましにはなっとるが、赤面物というしかないのう。

 あんな剣の銘は駄魔剣シャイセで十分じゃ。


 そして、夜。

 そうそう、あの馬鹿弟子のドゥムコプフが、いずれも失敗作の駄魔剣シャイセ、吸命剣ベセスンハイト、即死剣レーベンオプファー、集魔杖剣デァレッキッヒを盗み出したんじゃ。

 馬鹿弟子は駄魔剣シャイセを使って、強盗して死んだと聞いた。

 魔剣じゃから、使ったら副作用があるのは当然じゃろう。

 本当に馬鹿な奴じゃ……。


       ◇◆◇


 ふむ、来ておるな。

 鳴子など仕掛けとらんが、虫の声を聞いていたら判るものじゃ。

 近づいてくる方向さえ判る。

 モンスターではない気がする。

 たぶん殺し屋じゃな。


 気配を完全に消せる一流ではないようじゃ。

 安心できんが、なんとかなりそうかのう。


 月灯りに照らされた殺し屋の得物を見て、わしは頭を掻き毟りたくなった。

 今回の旅は偶然ではないと気づかされたわい。

 神の悪戯に違いないはずじゃ。


 よりによって、殺し屋の得物が駄魔剣シャイセ。

 もう、死んでおるが、死にたい気分じゃ。

 あの恥ずかしい記憶を思い出したのは剣の気配を感じ取ったからかも知れぬ。

 そう思いたい。


「坊主、起きろ。殺し屋だ」

【メモアーレン:ふみゃ……はっ! 殺し屋!!】

「落ち着くんじゃ。こいつはもう死んだも同然。適当に話でもしてろ。ほら交代じゃ」


【メモアーレン:【職人魂】キャンセル。弟の手の者ですか?」

「おい、子供! 死神鍛冶師のお宝を寄越せ! 持ってるのは判っている! 隠しても無駄だ!」


 死神鍛冶師はわしの別名。

 わしの客じゃったのか。

 もう、聞きたいことは判った。


【鍛冶職人:どうやら、わしがケリを付けないといけない問題じゃな。坊主、交代じゃ】

「【職人魂】師匠】


「お前さんに恨みはないんじゃが、そいつがこの世にあるとわしが赤面ものなんじゃ。悪く思うな」


 わしは魔力を伸ばして駄魔剣シャイセに注ぎ込んだ。

 爆発する駄魔剣シャイセ。


 殺し屋は爆発に巻き込まれて死んだ。


【メモアーレン:何で爆発したんですか?】

「スキル吸収スライムってがおるんじゃ。こいつは魔力を含んでいれば、魔法、スキル攻撃、何でも吸収するんじゃ。そして、吸収した力を攻撃に使うってことかのう」

【メモアーレン:スキルを封じられたら、きついですね】

「便利な力ほど、弱点があるものじゃ。魔力ってのはな、他人のを混ぜると、下手したら爆発するんじゃ。殺し屋の持ってた剣は使い手の魔力を吸って、剣の威力を増すって仕組みじゃ。もちろん、相手に攻撃するときは魔力は吸わん。攻撃してない間はずっと吸って溜めるわけじゃ」


【メモアーレン:スキル吸収スライムも複数の人のスキルを食らったら爆発するんですか?】

「そうじゃな。爆発すると酸の雨で、大惨事よ。爆発するってだけで駄魔剣シャイセは駄剣なんじゃが、魔力を際限なく吸うんじゃ。しかも、魔力が馴染んで段々と吸う量が増える。魔導師なら山を真っ二つに出来るじゃろうが。しまいにはミイラの出来上がりじゃな」


【メモアーレン:段々と強くなる剣は凄いですね】

「城を一撃で真っ二つにできても、死んだら元も子もないわい。駄剣じゃな」


 この剣を処分できてよかったわい。

 汚点がひとつ消えた気分じゃ。

 祝杯を挙げたいが、我慢しておくかのう。


【メモアーレン:死神鍛冶師って二つ名は恰好良いですね】

「恰好良いことなんぞない。最強と引き換えに、使い手を殺すんじゃからな。知ってて使うんじゃから、わしの剣を使う奴も何かしらの理由はあるんじゃろうが」


【メモアーレン:すみません、人殺しを誇ったらいけないですよね】

「そうじゃな。悪人を斬ったとしても誇るべきものではないな。人殺しは人殺しじゃ。今回みたいに、やむを得ない場合は殺すが、わしも誇ったことはないぞ。もう少し寝ておくとよい。見張りはわしがやる」


【メモアーレン:おやすみなさい】


 わしの打った駄剣は全て壊す。

 もっと早くこうしておけば良かったわい。

 坊主に余計な重荷を背負わせてしまった気分じゃ。


 師匠失格じゃな。

 わしが良い師匠だったことなど一度もなかった気がする。

 シュパルゲルなら、きっと良い師匠になったんじゃろうな。

 あいつは良い奴だったから。


 今からでも遅くないかも知れん。

 せめて坊主には良い師匠でいよう。

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