第15話 ディーノの正体
そう問いかけられて、ディーノは黙った。
「でも。ディーノがその王女様かも、という可能性であって確証はないんですよね? 記憶喪失だったところを保護した、のがギルドの公式見解ですし、こちらの行方不明者の調査でも該当者なし、という不鮮明な結果に終わった」
ジョージ隊長がそういった。
「確証がある」
きっぱり言ったのはジオだった。
「ギルドの公式見解と行方不明者の該当者なし、というのは状況証拠に過ぎないんだが、確定的なことはある。魔の森に入るとき、王家の決まりとして本人の髪を切って、立ち会ったものがその髪を四等分して儀式が執行された証明に王家と神殿に届けられる。この2つの遺髪は王宮内の神殿で祈りのために燃やされ、その灰と3つ目の遺髪が霊廟に収められる。残り一つは本人が望む相手に贈られる。王女の場合は、儀式施行直後にレデカッツの第三王子が直接我が国の大使館に届けに来た。王宮に遺髪が届く前に、このひと房をローザに届けてほしいということだった。大使館を経由して、アレンディバード侯爵家からじーさんあてに連絡があってすぐ確認したら、王女本人のものだった。ローザの忠信に感謝するという本人の言葉もあったし、レデカッツの公文書から、正式に7番目の王女の名前が消えたのもこのころの話だ」
ジオはディーノに視線をやった。
「さて、ここからが本題だ。俺には特殊能力があってな、魔力を匂いとして感知できる、と言った方がわかりやすいかな? 魔力感知能力、というのかな、とにかくその紙のひと房で判別がつくんだ」
ジオはそう言った。
「自分の婚約者の匂いに間違いなかった。立場上、身元不明の人間を側にはおけないし、嫌な匂いを持つ女性とは結婚したくなかったからな。そして目の前にいるディーノの匂いが同じ、と言ったらどうする?」
ディーノは深呼吸した。
「アレンディバード侯爵家から君を保護したと連絡が入った時、俺はすっ飛んで君を迎えに行きたかった。実際そうしかけたんだが、侯爵はかたくなに俺を拒否した。王女が記憶を失っていて、冒険者として生きている。だから少なくとも今は、こちらの年齢で成人するまでは様子を見たいと言ったからだ。記憶があるにしろないにしろ、少なくともこれから先の人生は王女自身が決めるべきだとね。君は……ディアナ・フランチェスカ・レデカッツだ。だが一方では冒険者のディーノ・フレンチでもある。君が市井に生きることは反対しない。それは俺と侯爵との一致した意見だったし、王も王太子も賛成している。正直、君が生きているだけで嬉しい。しかも今の君は笑っている」
「そう、ですか」
すっと、手を挙げたのはサックスだった。
「それがなぜ、プロポーズにつながるんですか?」
「そうですよね、矛盾していますよね?」
シェラがそういった。
「私が生きていることがレデカッツに知られたということよ。レデカッツは今頃血眼になって探しているんでしょうねぇ」
ディーノがそう言った。
同時に、ディーノの左手の甲がぼうっと光って紋章が浮かんだ。冒険者ディーノ・フレンチという名前の注釈に、元王女ディアナ・フランチェスカ・レデカッツの名前も刻まれている。
全員がディーノの正体を知った瞬間だった。
「でもどうして生きていることがわかった? ギルドの情報に記載されたとか?」
「多分、月読みの巫女の能力だと思う」
「意味わからないんですが」
ブロウがそう言った。
「ツキヨミのミコ?」
口々に謎が飛び出した。
「って、ディーノはどうして魔の森を抜けられた?」
ジョージ隊長が疑問を呈した。
「それはおばさまの導きがあったから」
シェラがそう言った。
「いや意味が分からん」
「それもあとで説明するわ」
ディーノはそう言って一度話を切った。
「月読みの巫女というのは攻撃魔法を持たない巫女なの。いま現在、レデカッツに生存しているのは月読みの巫女が二人。魔力感知能力がある巫女と、防御魔法が使える巫女。どちらも60歳すぎで、能力者としてはピークを過ぎている。星読みの巫女は攻撃魔法が使える巫女という意味で、現在は80歳近いのかな。水魔法が使える巫女」
「三人だけ? 他には?」
「かつてはいたけど、消費されてもういない」
「消費…」
「言ったでしょ、人間至上主義がどこに行きつくか。王家の血は歴代の男系男子の血族を持って維持されているのよ。その血を絶やしてならないのだから、女性を供給するシステムを作らないと維持できないでしょ?」
全員の頭に、つまり、生き残った子供たちはそれなりに能力があるということだが、生き残ったためにシステムを作り上げるために子供を産むことを強制されるという考えに行きつく。つまりは近親婚、場合によってはそれ以上のことがあったのかもしれない、と。
「うげぇ」
胸糞悪い話だと思う。
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ばかばかしいっ! だけど私は生きてゆく 藤原 忍 @umimado1
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