第19話
東京に戻った裕子は、もはや以前の裕子ではなかった。彼女の心の中には、正樹からもらった温かい勇気と、彼との共通の夢という揺るぎない光があった。
会社に出勤する足取りは、以前のように重くはなかった。上司に提出した企画書は、以前とは全く違うものだった。それは、正樹のひまわり畑のホームページ制作案だった。
「ひまわり畑のホームページ?」
上司は、裕子が提出した企画書を不思議そうに眺めた。
「はい。個人で請け負うつもりです。ただ、会社のノウハウも活かしたいので、ぜひ相談に乗っていただきたくて」
裕子は、淀みなく話した。ひまわり畑のロゴデザイン、オンラインショップの構築、SNSを活用した広報戦略。彼女の言葉からは、自信と情熱が溢れていた。
上司は、裕子の真剣な眼差しに圧倒され、ただ黙って話を聞いていた。そして、企画書に目を通し、ぽつりと呟いた。
「…面白い」
その日の夜、裕子は遥と電話をしていた。
「信じられない!あの裕子が、上司に意見するなんて!」
遥は興奮した声で言った。
「私にも、やりたいことができたから」
「ふーん。やっぱり恋の力はすごいねぇ」
遥にそう言われ、裕子は少し照れた。
しかし、健太との関係は、依然として微妙なままだった。
「裕子、最近、なんか忙しそうだな。俺との時間、全然取ってくれないじゃん」
健太は、少し不満そうに言った。
「ごめん。どうしてもやりたいことがあって…」
裕子は、正直に言えなかった。彼の隣にいると、心が締め付けられるような気がしたからだ。
ある日のこと、健太は裕子に、自分の会社が主催するパーティーの招待状を渡した。
「裕子、俺と来てくれないか?」
裕子は、迷った。このパーティーに行けば、彼の世界に深く足を踏み入れることになる。それは、今、自分が向かおうとしている方向とは違う気がした。
裕子は、その場で返事をすることができなかった。
家に帰り、スマートフォンを開く。正樹から、「今日のひまわり畑、すごく綺麗だったよ」というメッセージが届いていた。
そのメッセージを読んだ瞬間、裕子の心は決まった。
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