第20話
裕子は健太にメッセージを送った。
『ごめん、パーティーには行けそうにない。』
『そうか、残念だ。』
彼の返信は、いつもと同じくスマートだった。しかし、裕子は以前のように彼の隣にいる自分を想像することができなかった。彼の世界は、もう自分には遠い。
そして、裕子はパソコンを開き、正樹から送られてきたひまわりの写真を、一枚ずつ確認していった。ロゴのデザイン、フォント、レイアウト。裕子の頭の中では、すでにホームページの完成図が鮮明に浮かんでいた。
週末、裕子は徹夜で作業をした。疲労は感じたが、心は満たされていた。誰かに言われたからではない、誰かと競争するためでもない。ただ、正樹の夢を形にしたい。その想いだけが、彼女を突き動かしていた。
完成したホームページの第一案を、裕子は正樹に送った。
『正樹さん、第一案、見てください。』
すぐに電話がかかってきた。
「すごい…!」
電話口の向こうで、正樹が感嘆の声を上げた。
「俺の頭の中にあるものが、そのまま形になってる。ありがとう、裕子!」
裕子は、電話越しに伝わる彼の喜びの声に、胸が熱くなった。
「まだ途中です。これからもっと、正樹さんのひまわり畑の魅力を伝えていきます」
「…なぁ、裕子。来週、また来てくれないか?ひまわり畑、もうすぐ見頃なんだ」
その言葉に、裕子の胸は高鳴った。
その日の夜、裕子は遥に電話をした。
「遥、私、会社、辞めようと思うんだ。」
遥は驚いたが、すぐに「あんたらしいね」と笑った。
「その人、ほんとにすごい人だね。あんたをこんなに変えるなんて」
「うん。…私の人生、このままじゃダメだって、気づかせてくれた人だから。」
裕子はそう言うと、静かに電話を切った。
そして、次の日、上司に辞表を提出した。
「そうですか…」
上司は何も言わず、ただ静かに辞表を受け取った。
裕子が席に戻ると、彼女のデスクの上には、正樹のひまわり畑の企画書が置かれていた。上司が、彼女が席を立つ前にそこに置いたのだろう。
それは、裕子の情熱が、たしかにこの会社に伝わったことを示していた。
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