第18話
裕子が東京へ戻るまでの数日間、二人は毎日ひまわり畑で過ごした。裕子は正樹の作業を手伝い、土の感触や、夏の太陽の熱さを肌で感じた。パソコンの画面越しでは決して味わえない、五感を刺激する日々だった。
「裕子、これ、どう思う?」
ある日、正樹はスケッチブックを取り出し、裕子に見せた。そこには、ひまわり畑をデザインしたロゴや、ひまわりの花束をオンラインで販売するためのアイデアが描かれていた。
「すごい…!」
裕子は驚き、目を輝かせた。彼の描いたロゴは、シンプルながらも温かみがあり、都会の洗練されたデザインにも負けていなかった。
「裕子の力、借りたいんだ。このひまわり畑のホームページを、作ってくれないか?」
正樹は、少し照れたように言った。裕子は頷き、スケッチブックを手に取った。
「もちろんです。任せてください!」
裕子の胸は高鳴った。仕事で疲弊し、心を閉ざしていたはずの彼女が、今、心からワクワクしている。それは、自分のためではなく、正樹のため、そして彼の夢のためだったからだ。
二人は、海辺のカフェでパソコンを開き、デザインのアイデアを出し合った。裕子がパソコンでロゴを作り、正樹が紙にイラストを描く。まるで、昔からずっとそうしてきたかのように、息がぴったりだった。
「…裕子、本当に楽しそうだ」
正樹が、コーヒーを飲みながら言った。
「はい!こんなに仕事が楽しいって思ったの、初めてです」
裕子は笑い、パソコンの画面に映るデザインを見つめた。
「俺もだ。裕子といると、不思議と勇気が湧いてくる」
正樹の言葉に、裕子は顔を上げた。彼の目が、まっすぐに彼女を見つめている。
その夜、二人は海岸で並んで座り、満天の星空を眺めた。波の音が、静かに二人の間に響く。
「もうすぐ、東京に帰らなきゃいけない」
裕子がぽつりと呟いた。
「うん。…寂しくなるな」
正樹はそう言うと、裕子の手を取り、優しく握りしめた。
「でも…裕子がくれた勇気で、俺、もっと頑張れる気がする」
「私も。正樹さんがくれた居場所、絶対忘れません」
二人の間にあるのは、もうただの恋心だけではない。互いを支え、高め合う、特別な絆が生まれていた。
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