第17話

正樹の運転する軽トラックは、見慣れた農道を抜けて、さらに奥へと進んでいった。


「どこへ行くんですか?」


裕子が尋ねると、正樹はにやりと笑った。


「秘密の場所。とっておきの場所なんだ」


彼の言葉に、裕子の胸は高鳴る。どんな場所だろう。もしかしたら、二人だけの秘密の場所になるのだろうか。


軽トラックは、砂利道に入り、ゆっくりと進んでいく。車窓からは、鬱蒼とした木々が迫り、まるで森の中に迷い込んだかのようだった。やがて、開けた場所に出た。目の前には、広大なひまわり畑が広がっていた。


背の高いひまわりが、太陽の光を浴びて、一斉にこちらを向いている。まるで、黄色い絨毯が敷き詰められたようだ。裕子は、思わず息をのんだ。


「すごい…」


「ここ、俺の畑なんだ。今年の夏、特に頑張って育てたんだ」


正樹は、誇らしげに言った。


裕子は、ひまわり畑の中を歩き始めた。ひまわりは、彼女の背丈を優に超え、まるで迷路のようだった。太陽に向かってまっすぐに伸びるひまわりを見ていると、裕子の心の中に、忘れかけていた情熱が蘇ってきた。


都会で、誰かと比べて、焦って、自分を見失っていた。でも、このひまわりたちは、誰かと比べることなく、ただひたすらに太陽に向かって、自分らしく咲いている。


「裕子、こっち」


正樹の声がして、振り返ると、彼はひまわり畑の中心で、満面の笑みを浮かべていた。


裕子が彼のもとへ駆け寄ると、正樹はそっと彼女の手を取った。


「来年、このひまわり畑を、もっと大きくしたいんだ。そして、みんなに、このひまわりを見て、笑顔になってほしい」


正樹は、自分の夢を語った。彼の瞳は、ひまわりのようにキラキラと輝いていた。


裕子は、彼の大きな手の中に、自分の手を重ねた。


「私、正樹さんのデザイン、手伝いたいな」


裕子がそう言うと、正樹は驚いた顔をして、そして、優しい笑顔を見せた。


「ありがとう。でも、ここは土と汗の匂いがする場所だ。パソコン一つでできる仕事じゃないぞ」


「それでも、手伝いたいです。正樹さんの夢、一緒に叶えたい」


裕子の言葉に、正樹は何も言わず、ただ、彼女を優しく抱きしめた。

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