郊外の沼に刻まれる記憶と影

舞台は、郊外の山の麓にある沼。冒頭から語られるのは、そこに通っていた子供時代の記憶と、家族から聞かされた土地の来歴。文章は静かで、細部に注意深く、過度な演出を避けている。沼を取り囲む木々や光の描写は、事実の列挙でありながら、不思議と映像的に浮かび上がる。

「荒涼とした岩壁の灰色に、繁茂する苔が差し入れる緑。それらが描き出す陣幕を背負って、その沼はそこに、悠然と佇んでいました。」
景色を説明するだけではなく、対象を前にしたときの「距離感」をそのまま言葉にしている。静かな緊張が伝わってきて、ただの背景ではなく存在そのものを立ち上げる。

物語は、この沼にまつわる事故や、後に建てられた洋館と家族の奇妙な気配へとつながっていく。語り口は落ち着いているが、そこに含まれる「目撃の記憶」が積み重なることで、自然と引き寄せられていく。

事実と印象を混ぜ合わせるこの筆致が、土地に刻まれた歴史を感じました。

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