第26話

第26話 Target #23:春日井美咲


 SNSのおすすめ欄に、あの笑顔が映った瞬間、私は指を止めた。

 画面の中で春日井美咲は、明るく化粧を施し、背後に子供二人を座らせていた。

 「今日は“炎上しないための家庭教育”についてお話します!」

 そして彼女は、何のためらいもなく私の名前を口にした。


 ──二年前。

 炎上の渦中にあった私の顔写真、名前、切り取られた映像。それらを「悪い例」として彼女は動画に利用した。

 「こういう大人にならないよう、子供にネットマナーを教えることが大事です」

 そのとき横に座っていた彼女の長女は、表情を固めたまま笑顔を作っていた。

 動画は拡散し、コメント欄は私への罵倒で埋め尽くされた。火に油を注いだのは、他でもない春日井美咲だった。


 私はその後も彼女の名前を忘れられずにいたが、直接的な恨みを晴らす機会はなかった。

 ……だが、今は違う。

 私には道具がある。ネットに繋がるあらゆる機器を、私の意志通りに動かす力が。



---


 深夜2時、美咲の自宅サーバーに侵入。動画編集用PC、クラウドストレージ、スマート家電。

 最初に見つけたのは、非公開動画のフォルダだった。

 再生ボタンを押すと、画面に映ったのは撮影を嫌がる長女の姿。

 「もう撮りたくない。学校で言われるの、やだ」

 泣きながら訴える声を、美咲は冷たく一蹴する。

 「大丈夫大丈夫、これで再生数伸びたらまたディズニー行けるから!」

 次のファイルには、スポンサー企業とのメールや契約書。寄付金流用を匂わせる文章もあった。

 ──全て、彼女の笑顔の裏側だ。


 証拠は十分。

 でも、ただ暴露するだけじゃ足りない。

 私は彼女がやったように、「大衆が燃え上がる形」に整えてやる必要がある。


数日後。匿名のSNSアカウントが、ある動画を投稿した。

 それは、泣きじゃくる子供を無理やり撮影する美咲の姿と、寄付金流用の証拠が組み合わされた編集映像。

 BGMには、かつて彼女が私を批判した時の動画音声が使われていた。

 「こういう大人にならないように──」

 その台詞が、繰り返しエコーと共に響く。


 瞬く間に拡散。

 スポンサー企業は一斉に契約解除を発表し、視聴者は「子供を盾にする母親」「寄付金泥棒」と罵った。

 美咲は生配信で涙を流し「誤解です」と弁明したが、チャット欄は冷笑と罵声で埋まった。

 学校では長女への嫌がらせが始まり、美咲は急遽チャンネルを閉鎖した。


私は何も直接手を下していない。ただ、真実を世に見せただけ。

 彼女が私を“悪い例”として利用したあの日と同じ構図だ。

 違うのは──今度は彼女が炎上の渦中にいること。


 画面の向こうで泣き崩れる美咲を見ながら、私は心の奥底で静かに呟いた。

 「ネットリンチは。なくならない。」

これらのアカウントも目に焼き付ける。群がるゴミ悪共を



---


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