Ep1.2 target
六反田駅前は、死んだ街のように静かだった。
街灯の下に落ちる影だけが、不気味に長く伸び、風にかすかに揺れる。
瓦礫や壊れた自転車、倒れた看板が散らばり、普段の駅前の賑わいはどこにもなかった。
「……おかしいですね。報告じゃ、もう目撃されてるはずなのに」
西崎の声は震え、上ずっていた。
銃を握る手は冷や汗で湿り、引き金を握る指が微かに震える。
私は瓦礫に身を伏せ、冷静を装って周囲を見渡す。
「油断はするな。距離を保ちながら、様子を見るんだ」
自分に言い聞かせるように呟いたが、鼓動は喉まで上がってくる。
その時、駅の奥で金属が跳ねる音がした。
ガコン――。
西崎が肩をビクリと震わせ、息を止める。
「……聞こえました?」
「……あぁ」
暗闇の奥から、濡れた何かを引きずるような、ずる……ずる……という音。
地面に微かに振動が伝わる。何かが確実に動いている。
――ズシン。
瓦礫の上に立つ足が、わずかに地面を押し潰す音。
次の瞬間、駅の闇から“それ”が一歩踏み出した。
皮膚は焼けただれ、黒煙を噴き出す箇所もある。
手足は人間に似ているが、関節が不自然に曲がり、動きは滑らかで異様だ。
濁った瞳がこちらを捉え、低い唸り声が街全体に響く。
――PL600。
報告にあった変異種が、確かに目の前にいた。
「距離を……保て、西崎。こいつ何か変だ」
低く指示する。声には冷静さを保とうとする努力が込められているが、胸の奥は緊張で張り裂けそうだ。
PL600は前後に揺れ、威嚇するように爪を地面に擦る。
西崎は拳銃を構えるが、撃った弾はすべてかすめられ、効果はない。
「っ……効かない……!」
青ざめた顔で彼は後ずさる。
その瞬間、PL600が爪を振り下ろし、西崎の肩をかすめる。
痛みで膝をつき、血が滴った。
銃を握る手が震え、もう戦力にならない。
西京事変 徒恋 @leaf70
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