第5話 報告書
デロルト ソロヴォイ
9/16 留置所4番部屋にて死亡、原因不明
そう書かれた報告書が机の上に書類に紛れていた。目を疑った、信じたくない、何かの間違いであってほしかった。
言葉にもならない唸り声が腹のそこからじりじりと湧いてくる。気がつけば膝をついていた。
武器を握る手から力が抜けていく
「嘘だろ そんな...」
もつれた足になんとか力を込め立ち上がり、机の上をもう一度よく見た
落ちた涙が染み込んだだけで報告書は何も変わってくれなかった。
「なんで..なんでだよ..クソッ! ここまで来てこんなの.. 」
泣き腫らすのはもう終いだ
服の袖で涙を拭って報告書を直視すると他のことも見えてきた。 どれも知らない名前だが全て原因不明の死亡と報告書に記されてされている。日付はどれも近い、こんな短期間で何人も逮捕されるようなことがあるはずない。親父のときみたいに私利私欲のための言いがかりつけてやったんだ。 こんなことした監視隊のやつらが許せない。
親父が連れてかれるのを見ていることしか出来なかった自分も情けない。
この建物はもう制圧できているはずだ、
立ち上がり建物を出るとアルヴァラド達が広場で監視隊達を縛り上げている。
躊躇も葛藤もない
落ちていた拳銃を拾い上げ、拘束された監視隊員に突きつけた。
「おいお前!」
「ひぇっ!... なんだよ賊どもが 」
「黙れ.. 質問に答えろ!報告書のこいつら、みんな本当に殺したのか!」
報告書を目の前に叩きつけ問いただす。
「話すわけねぇだろ 今に近くの支部から増援が」
「通信は最初に壊してる、お前たちが仲間を呼べないようにするためにな」
アルヴァラドが割って入ってきた。
「! ...」
「さあ答えろよ!」
「...殺した」
「なんで殺したんだよ!親父はなんで殺されたんだよ!」
「それは... 疑いがあって..取り調べ中に..」
「なんの疑いだよ!そんなことを何人にもやってきたんだろ私利私欲のためによぉ!」
「... 」
報告書関連のことはこれではっきりした。だがまだ心残りがある。
「お前、二日前にリディア村に行ってたか?」
「リディア村...!」
「テメェあの村の逃げたガキか!」
「そうだよ 母さんはどうなった!」
「あぁ ライノの腹刺したババアか.. その場で殺したよ」
「!...」
クソッ!想像できてたこんなこと。分かっていた、分かっていたのに、やっぱり辛い。母さんまで死んだ。ほんの数週間で俺の人生めちゃくちゃだ。
なのに目の前のこいつは、こいつのせいだ。この状況であっても謝罪も後悔もする気が全く感じられない。もう聞きたいことは全部済んだ。
もう沢山だ、殺そう。
「殺すのか」
銃の引き金を引こうとしたとき、アルヴァラドが腕を掴んで止めた。
「こんなやつら生かしておけない!俺が殺す」
「後戻りはできないぞ、その覚悟はある
アルヴァラドの言葉でなんだか少し冷静になれた気がした。
人を殺す覚悟。ごめん父さん、母さん。連れてかれたときも殺される瞬間も俺は何もできなくて。今になってやっと行動に起こすのがこんなクソみたいなやり方。
「やめっ やめろ!」
「頼む! 俺が悪かった! 取った物も返す!」
「やめてくれ!」
...
....
重い引き金を強く引いた。とっくに過ぎ去った銃声も銃口から溢れた火も飛び散った鮮血も、俺の耳と目に残ってる。
手が震えてる。初めて銃撃ったもんな、びっくりした。撃ったのはたった1発だったけど、さっきまでの怒りや興奮が一切合切吹き飛んだ。
そんな衝撃的な1発だった。
「お前はもう休んでいろ」
「ああ、ありがとうアルヴァラド」
きっと間違ったやり方だったんだろうけど、やっと誰かのために動けた。
決して誇れる物じゃない、決して正しくない方法だ。それでも俺はこれでよかった。あんなやつらこうなって妥当だ。
「あら 腕怪我してるわよ、手を見せて」
セレンさんが救急箱を持って近づいてきた。
「ありがとうございます、セレンさん」
「いいのよ、それにこんな戦いに子供を巻き込んでるのは私達、むしろ謝るのはこっちだわ」
乱戦にできたのか、腕の切り傷に水筒で水をかけてガーゼを巻き始めた。
「戦いなんて初めてだろうに、あんまり怯えたりしてないのね、今は大丈夫?」
「はい。なんか色々起きたけどそんなのが次々流れていく感じで、なんか、よくわからない..感じです」
「ふふっ それ、気持ちが高ぶってるんだよ」
「はいお終い、安静にしてるといいわ」
セレンさんはガーゼ巻き終わると次の怪我人の元へと駆けて行った。
高ぶってる、そうだおれハイになってんだ。
なんだか頭が痛くなってきた、
宿舎の近くにベンチがあってはずだ、そこでは休もう。
辺境から始まった戦記 @Wendigo63
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