0時編 真実

0時 微笑みの意味

『生まれ変わっても探しに行く。お前を守るよ』


 しかしガラスの靴は、もう片方あったのです。



 研究所により、漣と神宮、二人の能力の解析は完了した。その結果は残酷で、ただひとつの真実を示していた。


 漣は記憶改竄の力を、本当に持たなかった。

 神宮は読心術を、能力そのものとして欠いていた。


 心がないから使えなかったのではない。最初から欠落していたのだ。


 そして、漣の処刑の瞬間。観測された揺らぎは時間の歪みだった。


「過去へ還ろうとした痕跡です」


 漣は、処刑の瞬間に悪魔と化し、過去へ跳躍した。

 そして、記憶を欠いたその悪魔は――


 神宮そのものとなった。


「……違う」


 神宮の唇が震えた。


 自分が漣を求めたのは、欠けた能力を埋めようとする、本能だと?

 その理論には一つ問題があった。否定したい理由があった。


 漣は最期に言った。

「お前に愛されていたから満足だ」と。


 ……だが、本当に、自分は愛せていたのか?

 彼の願いを、叶えられていたのか?

 理想に、唯一の嘘をつかせてしまったのか?


 愛か本能か、どちらでもいいはずだった。

 けれどもし君に欠落が残っていたなら、君が満たされることなく消えたのだとしたら、僕はそれを否定したい。



 その時、研究所の奥に、神宮は一人の幼い子供が見た。


「あれは誰?」


「最後の模倣体で、あの人の優しさを再現しています。名前はまだ付いていません」


「優しさ……彼には読心術はないの?」


「えぇ、ありません」


 神宮は空を仰いだ。


 天井を超えて、夜明けの空に、白鳥が一羽、静かに旋回するのが見えた。


 最後は白鳥から、ガラスの靴を受け取るんだったな。遥かに、どこまでも翔ぶ鳥のように。


「有馬、遥翔」


 彼が最後のガラスの靴だ。

 彼と出会い、信頼を築き、そしてその全てを破壊した時。僕の中に、揺れ動くものがあるのなら。漣以外に、何かを感じられるのなら。

 僕の愛は本物だったと証明できる。


「……漣くん。やりたいことが見つかったよ」


 自然が真空を嫌うように――僕も、君の心の空白を埋めたかった。


 証明するんだ。

 君への愛を。


 真空は、世界を愛せると

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