ぜんぶぜんぶ、私の勝手

SEN

本編

 好きだよ、なんて。そう軽々しく言ってしまえるあなたが憎かった。


 その「好き」がLOVEではなくLIKEだと知っているから。


 彼女は人との距離感が近く、思った事をストレートに口にするタイプだった。そんな天真爛漫な彼女に惹かれたのだけれど、この恋が届かない事を知って、だんだんと彼女が無神経に向けてくる笑顔が憎たらしくなってしまった。


 でも、こんなの私の勝手だ。彼女は何も悪くない。悪いのは、彼女の親友という立場を犠牲にする覚悟ない私だ。


 そう自分に言い聞かせて、彼女の親友としてずっと隣にいた。


 成就しない恋が胸に突き刺さったまま抜けない。痛みを忘れるどころか、日に日に悪化していく。だんだんと彼女への恋が歪なナニカに変わり始めていたのに気付きながら、それを傷だらけになりながら抑え込むことしかできなかった。


「わたし、結婚するんだ」


 それが決壊したのは、彼女にそう告げられた日だった。


 赤く染まった彼女にキスをする。彼女の細い体から伝わってくる熱は弱々しいけれど、それも運動が苦手なあの子らしくて好きだった。


 昔から彼女の頬はマシュマロのように柔らかくて、よくじゃれあうときに触れていた。仕事が大変だからかな、昔より頬の触り心地が固かった。


 天真爛漫な彼女によく似合うミディアムヘア。大学生になって金色になったり、青色になったり、ころころ色が変わったけど、私が黒が一番似合うと言ったら染めるのをやめてくれたっけ。私の腕の中にいる彼女の髪を梳きながら、そんな昔のことを思い出していた。


 ……そうだね。あなたはずっと私を好きでいてくれた。でも、あなたの好意の形は、私を傷付けるだけだったの。知らなかったよね。分からなかったよね。


 ごめんね。私は勇気がなかったの。あなたはこんなにも私を好きでいてくれたのに。結婚を最初に伝えるくらい信頼してくれていたのに。私は「好き」と言うだけでこの関係が壊れてしまうと思ってしまったの。


「ごめんなさい……大好きよ……」


 初めて心の底からあなたに好きと言えた。もう何を言っても遅いのに。


 ごめんなさい。罪を償うにも、私が払えるものはこれくらいしかないの。足りるわけがない。ごめんね、明日から一緒にいられない。


 彼女への身勝手な懺悔をしながら、私は赤く染まった彼女を抱いて、醒めない夢の中へ落ちていった。


 ウエディングドレスは白がいいって、私はそんな願いすら叶えられなかった。

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