第41話 星屑の山脈へ

三女神の遺産をそれぞれ身につけたソフィア、セレーネ、リリアナ。

新しい力を確かめるため、アレンたちは「次の依頼」を検討していた。


「せっかくだから、実戦で装備の性能を確かめたいわね」リリアナが提案する。

アレンは依頼リストを広げ、その中から指で一つを示した。


「今、場所が判明している依頼の中では……これだ。“星屑の山脈──アストラゴンの星形の断面を持つ角”」


七大角獣のひとつ、アストラゴン。

巨体を覆う鉱石の鱗は星のごとく輝き、その角はまさに星屑を固めたような輝きを放つと言われていた。


「ちょうどいい。強敵を相手にすれば、新装備の力も存分に試せる」

アレンの言葉に、仲間たちは順に頷いた。


出発の準備を整えた一行は、王都の空港から魔空船に乗り込む。

蒼穹を切り裂くように船体が浮かび上がり、帆に刻まれた魔力陣が輝きを放つ。

揺れる甲板の上、セレーネは鋼棘アーマーに身を包み、弓を構えながら小さく呟いた。

「これが……本当に私の戦い方を変えてくれるのかしら」


魔空船で丸一日。

山脈の玄関口となる中核都市に到着すると、さらに魔導車に乗り換えた。

車輪を浮かせる魔石が唸りをあげ、山間を走り抜けること半日。


辺境の小さな村にたどり着いた時、すでに日は傾いていた。

そこから先は道なき道、徒歩で二日かけて星屑の山脈へ向かうことになる。


夜空を仰げば、無数の星々が瞬き、まるで山脈そのものが光を吸い込んでいるかのように見えた。

アレンは拳を握りしめ、仲間を振り返る。

「さあ……次は七大角獣、アストラゴンだ」



辺境の村を出発して一日。

星屑の山脈へ向かう街道には小型の魔物が点在していたが、いずれも脅威にはならなかった。


「……ふっ!」

ソフィアが杖を掲げると、掌から小さな火球が放たれ、狼型の魔物を弾き飛ばす。

続けざまに水の刃と風の矢を繰り出し、弱い魔物を一掃した。


「すごい……今まで補助魔法と回復くらいしかできなかったのに……!」

自分の力に驚くソフィアの横で、リリアナはマントを翻し、草原を駆け抜けていた。


残像を残すほどの速度で魔物の背後を取り、短剣を喉元に突き立てる。

一瞬のうちに勝負は決まり、リリアナが軽く地面を蹴ると、風翼マントが舞い上がり――ほんの短い時間だけ、彼女の体は宙に浮かんだ。


「……飛んでる!?」

カイルが目を丸くする。

「少しの間だけよ。でも、奇襲には十分使えるわね」

リリアナが着地して肩を竦めると、セレーネの弓が唸りをあげた。


鋼棘アーマーに包まれた彼女の矢は、金属をも貫く勢いで魔物の群れを串刺しにする。

放たれた一射はまるで大剣の一撃に匹敵し、その威力にカイルは目を見開いた。


「な、なんだよそれ……俺の役割、なくなるじゃねえか!」

焦り混じりに叫ぶカイルに、セレーネは涼しい顔で微笑んだ。

「あなたの力があればこそ、私の矢も意味を持ちますのよ。心配いりませんわ」


だがカイルは、内心穏やかではなかった。

(くそっ……このままじゃ本当に俺の立場が……!)


弱い魔物との戦闘でしかなかったが、新たな装備の性能は確かに仲間たちの力を底上げしていた。

その力を本当に発揮できるのは――七大角獣アストラゴンとの戦いであることを、全員が理解していた。

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