第40話 三女神の遺産、継承の時

国王の許しを得て、宝物庫から運び出された二つの装備。

棘のような意匠を纏った鎧――ヴァルキリアの鋼棘アーマー。

薄布の翼が風を孕み、今にも空へ舞い上がりそうなマント――シルフィアの風翼マント。


セレーネが微笑みながら口を開いた。

「こうして見ると、難易度の高い依頼を完全に達成したのは初めてじゃない?」


リリアナはすぐさま腕を組み、冷めた声で返す。

「3分の2は宝物庫からの貰い物よ。達成したって言えるのかしらね」


カイルは大剣を肩に担ぎ、にやりと笑った。

「まあまあ。問題は、この二つを誰が装備するかだろ?」


アレンはしばし考え、迷いなく答えた。

「弓使いのセレーネが“鋼棘アーマー”、シーフのリリアナが“風翼マント”だな」


「え、私がアーマー!?」

セレーネは目を丸くする。


アレンは頷き、アーマーを指差した。

「ヴァルキリアの鋼棘アーマーは腕力を強化して攻撃力と耐久力を倍増させる。さらに物理攻撃を受けたら自動で反撃してくれるし、一時的に力を爆発的に高めることもできる。ただし反動もあるけどな」


セレーネは弓を見つめ、小さく頷いた。

「本来は後衛だけど……腕力が上がれば前衛も務められる。遠距離も近距離も対応できる……確かに、役に立てそうです」


次に、アレンはリリアナへ視線を向ける。

「シルフィアの風翼マントはスピードを大幅に高める。移動と回避が倍増して、短時間なら空を飛ぶことも可能だ。さらに残像を残して敵の攻撃を外させる“幻影の舞”まである」


リリアナは驚いた表情を浮かべ、すぐに口元を引き締めた。

「つまり、私がサポートに徹するなら最適ってことね」


「そうだ。お前は攻撃よりも罠解除や情報収集、仲間の援護に長けてる。風翼マントがあれば、戦場を自在に駆け回れる」

アレンの言葉に、リリアナはゆっくりと頷いた。


「……わかったわ。じゃあ、このマントは私が責任持って使う」


三女神の遺産を身につけ、力を得たセレーネとリリアナ。

二人の姿を見て、カイルが不満げに口を尖らせた。


「なあなあ、次は俺の防具だよな? アレン。ほら、俺だけなんもないじゃん」


アレンはあっさりと首を振った。

「お前は市販品で十分だ。あとは気合と根性でどうにかしろ」


「ちょっ……!」カイルは目を剥き、肩をバシバシ叩きながら抗議する。

「気合と根性でドラゴンのブレスは防げねえだろ!」


「そこはがんばって避けろ」

アレンの即答に、リリアナが吹き出し、セレーネは口元に手を当ててくすくす笑った。


「ひでぇ……仲間の扱いが雑すぎる……!」

カイルは天を仰ぎ、ソフィアが慌てて「が、がんばって避けて……」と慰めるが、余計に涙目になってしまった。


仲間たちの笑い声が響き、厳粛だった宝物庫の空気は一気に和やかに変わった。

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