第42話 アストラゴンと神器

村を出発して二日目。

一行はようやく星屑の山脈の入口に辿り着いた。険しい岩肌が幾重にも重なり、夜空の星を受けてかすかに光る。ここからは本格的な登山だ。


「さて……アストラゴンを探すぞ」

アレンがそう宣言し、全員は岩道を登り始めた。


しかし――。


一日探しても、肝心の七大角獣の姿は見えない。

険しい地形と絶え間ない移動に体力も削られ、成果のない探索に精神的な消耗が重くのしかかっていく。


「……さすがにキツいな」

カイルが額の汗をぬぐったその時。


「待って」

リリアナが鋭く声を発した。


視線の先、岩間を軽やかに跳ねる影があった。

巨躯を持ちながら岩壁を駆ける姿は、まさに伝承にある“アストラゴン”。


「……角を確認する」

リリアナは風翼マントを翻し、疾風のごとく岩場を駆け抜けた。

残像を残すほどの速度で接近し、至近でその角を目にする。


「星形の断面……間違いない!」


アストラゴンはそのまま山頂へ向かって跳ね上がる。

「逃がさない!」

リリアナは行く手を回り込み、素早く身を躍らせて進路を塞いだ。


次の瞬間、遠方から鋭い弓音が響く。

セレーネの放った矢は鋼棘アーマーの力を帯び、閃光のように岩場を貫いた。

矢は正確にアストラゴンの胸を撃ち抜き、その巨体は岩壁を崩しながら倒れ伏した。


「……決まったな」

リリアナが息をつき、セレーネは静かに弓を下ろした。


その後方で、アレンとカイルは顔を見合わせる。

「……俺たち、出番なかったな」

「ま、まあ……たまにはいいんじゃないか」


こうしてアストラゴンは討たれ、七大角獣の星形の角が新たに回収された。

だが二人の戦闘機会のなさが、妙な気まずさを残すことになった。



岩場に倒れたアストラゴンから星形の角を回収し、一行は山頂近くでしばし休息をとった。

吹き抜ける冷たい風の中、リリアナがふと笑いを漏らす。


「ねえ……正直、いまの戦いを見て思ったんだけど。私とソフィアとセレーネの三人だけでも、十分やっていけそうじゃない?」


「……」

アレンとカイルが言葉を失う中、セレーネは真顔で首を傾げた。

「私は……アレンと二人組がいいですわ」


「……はぁ。空気読めない王女様はこれだから」

リリアナが呆れ顔で肩をすくめ、ソフィアは困ったように笑う。


場の空気が微妙に揺れる中、ふとアレンが山頂の岩場に目を凝らした。

「……あれは?」


遠くで何かが太陽光を反射し、キラリと輝いていた。

近づいてみると、風化した岩肌に突き刺さっていたのは――巨大な剣。


「……これは……!」

淡い蒼銀の刃が夜明けの光を思わせる輝きを放つ。

その名は伝承にも記された神器――八種の神器のひとつ、“朝凪の大剣”。


「おおっ! これは俺がもらうぜ!」

カイルが目を輝かせ、手を伸ばそうとした瞬間。


「駄目ですわ」

セレーネがぴしゃりと制止した。

「神器は国が管理するものです。今まで見つけた神器も、すべて王国の宝物庫で保管しているでしょう?」


カイルはむっと顔をしかめる。

「いやいや! 俺にも専用の武器があっていいだろ!」


だが、リリアナが横から冷静に突っ込んだ。

「どうせ持ったところで、扱いきれないでしょうね」


険悪な空気になりかけたが、アレンは苦笑しながら剣を見上げた。

「……ともかく、これも回収して国に届けよう。伝説の遺産がまた一つ、見つかったんだ」


山頂に立つ仲間たちは、強い風に吹かれながらも確かな達成感を胸に刻んでいた。

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