第27話 イリシアの涙石

轟音と共に炎の奔流が洞窟を灼いた。

アレンは両手を広げ、土魔法で壁を築き、その内側に水魔法を重ねる。


「くっ……!」

土壁が赤熱し、水蒸気が吹き荒れる中、ようやく炎のブレスを相殺できた。

ほんの一瞬でも集中を乱せば、焼け焦げて終わる。


「おいおい! 熱すぎて洒落になんねぇ!」

カイルは大剣を構えながら、火の粉を浴びて逃げ回っていた。

しかし彼があちこちに飛び回るおかげで、ドラゴンの首は左右に忙しく振られ、結果として時間稼ぎになっていた。


その頃、洞窟の奥。

岩壁の中に、ひときわ眩い光が瞬いていた。


「……あれだ!」

リリアナが駆け寄り、短剣で岩を削り始める。

だが岩は驚くほど硬く、刃が弾かれる。

「くそっ……全然掘れない!」


ソフィアは必死に祈りを捧げ、熱気に震えながらも仲間を見守る。


「仕方ありませんわね……」

セレーネが一歩下がり、深く息を吸う。

弓に矢をつがえ、集中すること数秒──。


「──破れなさい!」


放たれた矢が魔力を帯びて岩壁に突き刺さる。

直後、轟音と共にひび割れが走り、岩が崩れ落ちた。


煌めく石塊が姿を現す。

それは、まるで夜空を閉じ込めたかのように淡く光り輝く──イリシアの涙石だった。


「見つけた……!」

リリアナの声が震えた。


だがその瞬間、洞窟全体が大きく揺れた。

ファイヤードラゴンが咆哮を上げ、異変を察知したかのように奥へ首を伸ばす。


「やばい! 早く持ち出せ!」

アレンの声が洞窟に轟き、緊迫の時間が走り出した。


煌めく石がごろりと転がり落ちる。

「こんなに……!」

リリアナが驚きの声を上げた。


洞窟の床には、大小さまざまなイリシアの涙石が散らばっていた。

3人は手分けし、袋や外套に詰め込めるだけ詰め込む。


「全部は持ちきれない……でも、できる限り!」

ソフィアは必死に震える手で石を掴み、セレーネは弓を背に回して両腕いっぱいに抱えた。


その背後で、アレンとカイルが必死の戦いを続けていた。

「おらぁッ!」

カイルが大剣でドラゴンの足を斬りつける。だが、厚い鱗に弾かれ、かすり傷程度しか与えられない。


「チッ……全然効かねぇ!」


アレンは走り抜けて奥へ向かい、3人の姿を確認した。

「よし、集めたな!」


合流した瞬間、アレンは短く叫んだ。

「──息を止めろ!」


次の瞬間、アレンは最大級の水魔法を解き放った。


轟音と共に、洞窟全体に奔流が生まれた。

押し寄せる水流は怒涛のごとく仲間たちを呑み込み、一気に洞窟の入口へと押し流す。


「うわあああっ!?」

「きゃあっ!」

カイル、リリアナ、ソフィア、セレーネの四人は翻弄されながらも必死に石を抱え込み、水流に乗って運ばれていく。


アレンは最後尾で走り続け、水流に足を取られそうになりながらも必死に前へ進んだ。

熱気と炎が背後から迫り、ドラゴンの咆哮が耳をつんざく。


「──っく!」


全身の力を振り絞り、アレンは洞窟の入り口まで走り切った。


水流と共に吐き出されるように、5人は外の岩場へ転がり出る。

息を切らしながらも、誰もが涙石をしっかり抱え込んでいた。


「……生きてる……」

ソフィアが涙目で呟く。


背後から、ファイヤードラゴンの怒りの咆哮が山を震わせた。

だが洞窟の奥に留まり、それ以上は追ってこなかった。


「……ふぅ、なんとか成功だな」

アレンは剣を鞘に収め、空を仰いだ。

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