第26話 ドラゴンを避ける道

険しい山道を進む一行。

岩肌からは熱気が立ちのぼり、木々は焼け焦げたように枯れ、どこからか硫黄の匂いが漂ってきていた。


「……ここから先が、ファイヤードラゴンの縄張りだな」

アレンが険しい表情で前を見据える。


その横で、リリアナが肩をすくめた。

「ちょっと待って。いい? ファイヤードラゴンを倒す必要はないわ」


「は?」カイルが驚いた顔をする。

「だってドラゴンって言ったら退治だろ?」


「馬鹿ね。あの砂漠で出会ったデザートドラゴンを思い出しなさい。寿命数千年で、国家レベルで挑んでも討伐できてない存在よ。あれと同等、もしくはそれ以上の強さがあるのよ」


ソフィアは青ざめ、セレーネも神妙な顔で頷いた。

「……確かに、私たちの実力では分が悪すぎますわね」


リリアナは地図を広げ、指で奥を示す。

「私たちが欲しいのは“イリシアの涙石”。ファイヤードラゴンそのものじゃない。なら──ドラゴンを避けて奥へ進み、涙石を採取して帰る。それが最善よ」


アレンは腕を組み、しばし黙考した。

「……確かに正論だな。正面から挑む必要はない」


カイルは不満げに唇を尖らせる。

「せっかくドラゴンに挑めるチャンスなのに……」

「死に急ぎたいなら一人で突っ込めば?」リリアナが冷たく返す。


ソフィアは小さく息を吐いた。

「私は……涙石を持ち帰れるだけで十分です」


「なら決まりだ」アレンは頷き、剣を握り直した。

「俺たちはドラゴンを避けて奥へ──必要なものだけを持ち帰る。それが今回の作戦だ」


洞窟の入り口に立った瞬間、地を揺るがすような咆哮が響きわたり、灼熱の風が吹き抜けた。

岩壁を赤々と照らし出すのは、巨躯のファイヤードラゴン。

その眼光は熔岩のように燃え盛り、ただ存在するだけで命を削られるような威圧感を放っていた。


「……作戦通りだ」

アレンは剣を握りしめ、カイルと目を合わせる。


「俺とカイルでドラゴンの注意を引く。その間に、リリアナ、ソフィア、セレーネ──お前たちは足元を横切って奥へ進み、涙石を探せ」


「ちょっと……冗談じゃないわよ」リリアナが顔を強張らせる。

「俺たちだって命がけだ」カイルは大剣を構え、不敵に笑った。

「お互い様ってやつだ」


ソフィアは震える手を胸の前で組み、必死に頷く。

「……必ず、見つけてきます」

セレーネも弓を握り、静かに決意を示した。


アレンとカイルが一歩前に出ると、ドラゴンの瞳がぎらりと二人を捉えた。

「来いよ……!」アレンが叫び、魔力を纏った斬撃を放つ。

轟音と共に炎のブレスが洞窟を灼き、二人は必死に避けながら注意を引きつける。


その隙に、リリアナたちは影のように岩陰を駆け抜けた。

熔岩の熱気が喉を焼き、汗が滝のように流れる。

だが立ち止まれば、灼熱の息吹に呑まれるだけだった。


「急いで……!」リリアナが小声で急かす。


命がけの囮。

命がけの探索。


涙石を見つけ出すまでに時間がかかれば、アレンとカイルが倒れ、3人も生きて帰れないだろう。


成功への鍵は──ただ一つ。

誰がどれだけ踏ん張れるかにかかっていた。

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