第25話 魔導ローブへの挑戦

「まずは──イリシアの魔導ローブから始めよう」

アレンがそう告げると、ソフィアの目がぱっと輝いた。


「わ、私に……ですか?」

「そうだ。君は回復役でもあり、魔法の担い手だ。君の力を底上げするのが一番効率的だろう」

アレンは穏やかに頷いた。


リリアナは腕を組み、少し唇を尖らせる。

「またソフィアばっかり……」

セレーネはくすりと笑い、からかうように言った。

「私は構いませんわ。だって、魔力が2倍になったソフィア様が暴走したら……きっと面白そうですもの」

「お、面白いって……!」ソフィアは顔を真っ赤にして慌てた。


魔導ローブの伝説


老舗防具屋の店主は巻物を広げ、ローブについて説明した。


「これは、かつて魔力の女神イリシアが織り上げたとされるローブ。古代の女性魔導士たちはこれを身にまとい、魔王の軍勢を単独で退けたと伝わっている」


ローブの外観は、青紫色の光沢を持つシルク状の生地。

袖口と裾には星型のルーンが刻まれ、魔力集中の際には光を放つという。


「……ただし作るには、伝説級の素材が必要だ」


1.イリシアの涙石

 女神の涙が固まったとされる希少な魔晶石。

 → ファイヤードラゴンが住む洞窟の奥に眠る。


2.月光シルク

 満月の夜にしか採れない幻の蜘蛛の糸。

 → 月下の森の奥、シルクスパイダーの巣から得られる。


3.星屑粉末

 流星の残骸から精製される、微細な魔力の粒子。

 → 星降る丘でしか拾えない希少品。


「この三つを揃えれば、イリシアの魔導ローブを鍛え上げられるだろう」


アレンは仲間たちを見回し、決意を込めて言った。

「よし。まずは“イリシアの涙石”だ。ファイヤードラゴンの洞窟を目指すぞ」


カイルは大剣を担いで笑う。

「ドラゴン退治か! いいじゃねえか!」


リリアナは深いため息をついた。

「……また厄介な場所だね」


ソフィアは緊張した面持ちながらも、小さく拳を握る。

「が、がんばります……!」


店主が机に広げた巻物には、三女神の遺産に必要な素材の場所が細かく記されていた。

イリシアの涙石、月光シルク、星屑粉末……。


「……記載されていても、今まで誰も集められなかった。つまり、それだけ難しいということだ」

店主の言葉は重く響いた。


アレンは巻物をじっと見つめ、各素材の場所を丁寧にメモに書き写していく。

「難しくても、やるしかない」


仲間たちはその決意を見て、自然と頷いた。



「まずはイリシアの涙石……ファイヤードラゴンの洞窟だな」

アレンが口にすると、カイルは目を輝かせた。

「ドラゴン退治! やっと派手なのが来たな!」


リリアナは冷ややかに睨む。

「あなたが一番最初に死なないように気をつけなさいよ」


「そ、そんなこと言わないで……」ソフィアは顔を青くしている。

セレーネは堂々と微笑んだ。

「安心してください。王女として、ドラゴン退治に同行するのも面白い経験ですわ」



ファイヤードラゴンが棲む洞窟は、険しい山の中腹にあった。


まずは魔空船で最寄りの街へ。

空を滑るように飛ぶ大きな船の甲板で、アレンたちは涼しい風を受けながら移動した。


そこからは魔導車に乗り換える。

魔力推進の車輪が石畳を走り抜け、山道の麓まで一気に運んでくれる。


「便利な時代になったものね……」リリアナが車窓を眺めながら呟いた。

「それでも最後は徒歩だ」アレンが真顔で答える。


山の麓に降り立った一行は、険しい山道を登り始めた。

雲が垂れ込め、空気は熱気を帯びている。

遠くで、竜の咆哮のような音が木霊した。


「……いよいよか」

アレンが剣の柄に手をかけた。


仲間たちは緊張を胸に、ファイヤードラゴンの洞窟へと歩を進めていった。

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