第15話 王女様まで参戦!? 許嫁バトル開幕
王宮へ向かう前に、サンダーロアの角を依頼主である貴族の屋敷へ届けることにした。
「おお……まさか、もう、一本を持ち帰るとは!」
貴族は目を丸くし、信じられないという表情を浮かべた。
「一年かかっても一本も手に入れられぬと思っていたのに……実に素晴らしい」
彼は上機嫌で重厚な袋を差し出した。
「これが成功報酬だ。約束通りだぞ」
袋を受け取ったカイルは、にやりと笑う。
「よーし! 金も入ったし、かわいい女の子のいる店に行こうぜ、アレン!」
「はあ?」
リリアナが眉をひそめる。
ソフィアも珍しく目を細めて笑った。
「許嫁が二人いる身分で、楽しそうな相談ですね?」
「えっ……いや、その……!」
アレンは冷や汗を流しながら両手を振った。
「俺は誘われただけで!」
「ほう、そう。誘われただけでノリノリの顔をしてたのね」リリアナが鋭い視線を向ける。
「アレン様……そういうところ、ちゃんとしていただかないと」ソフィアが静かに追い討ちをかける。
「カイルぅぅ! お前のせいだろ!」
「ははっ、悪い悪い!」
──軽い騒ぎを経て、一行は王宮へと向かった。
巨大な門の前で衛兵に告げる。
「神器を発見したので、王家へ直接報告に参りました!」
しかし衛兵はきょとんとした顔をした。
「神器……? なんだそれは。冒険者の戯言か?」
「おいおい、もっと上のやつ呼んでこいよ!」カイルが声を張る。
だが衛兵は冷ややかに一瞥した。
「お前たち、冒険者ランクは?」
「私がD。で、こいつがE。そっちもE、E」リリアナが淡々と答える。
「……話にならん。帰れ」
「ちょ、ちょっと待て!」
だが衛兵は取り合わず、門の前から手で追い払う仕草をした。
ランクの低い冒険者に相手をする気など、これっぽっちもないという態度だった。
アレンたちは門の前で途方に暮れ、互いに顔を見合わせた。
「……ど、どうする?」
「どうするもこうするも……完全に信用されてないわね」リリアナがため息をついた。
カイルは唇を尖らせる。
「せっかく神器まで持ってきたってのに……」
雷鳴の槍を背負ったまま追い返される冒険者たちの姿は、どう見てもただの場違いな若造の集団にしか見えなかった。
王宮の門前で立ち尽くし、どうしたものかと相談していたそのときだった。
眩い光を放つ魔力の紋章を刻んだ「魔導車」が石畳を滑るように到着した。
「な、なんだあの豪華な乗り物……」
カイルが口を半開きにする。
扉が開き、現れたのは──蒼衣を纏うセレーネ王女だった。
「……あなたたち、何をしているのです?」
凛とした声に、衛兵たちが一斉に頭を垂れる。
アレンは慌てて背中の槍を取り出した。
「王女殿下! 僕たち、《雷鳴の槍》を発見したんです!」
セレーネは目を見開き、槍の刃先を見つめた。
雷光が走り、空気が震える。間違いなく神器だった。
「……本物。こちらへ」
王女の一言で、さっきまで追い払おうとしていた衛兵たちは蒼白な顔で道を開けた。
王の謁見
広間に通され、玉座に座す国王の前へ進む。
「この数百年……神器を見つけて持ち帰る者など一人もおらなんだ。よくぞ見つけた」
低く響く声に、アレンたちは跪いた。
「この槍を発見した功労者は誰か?」
アレンは即座に言った。
「ソフィアです。彼女が気づきました」
「いえ、俺だ。槍を引き抜いたのは俺だからな!」カイルが割り込む。
「アレンに決まってるでしょう!」リリアナが睨みつける。
「そ、そうです……アレン様のお力です」ソフィアもおずおずと告げた。
玉座の王はしばし沈黙したのち、重々しく言葉を落とす。
「ならば──アレンとセレーネの婚姻を認めよう」
「……え?」
「ええっ!?」
広間が騒然とする。
「待ってください!」
リリアナが勢いよく立ち上がる。
「アレンは私の許嫁です。王女様といえど──譲れません!」
「そ、それは私も同じです!」
ソフィアも勇気を振り絞って前へ出る。
「私もアレン様の許嫁です。誰にも渡しません!」
玉座の前で二人が火花を散らす中、セレーネは一歩進み出て、凛とした声で告げた。
「では……私がアレン様を振り向かせてみせましょう」
にっこりと微笑むその姿に、広間の空気はさらにざわめく。
「えぇぇぇぇ……」アレンは完全に固まっていた。
そんな修羅場の横で、カイルが大きくため息をつき、腕を組んでぼやく。
「……なあ、俺にも誰か許嫁をくれよ」
広間に、重苦しい空気と妙な沈黙が流れた。
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