第14話 魔神、そして三重の成果

洞窟の奥。崩れた壁の向こうから、濃密な闇の気配が溢れ出した。

「……っ、この圧……!」

アレンとカイルは同時に背筋に冷たいものを感じ取る。


「まさか……《十六魔神》の一体か?」


禍々しい気配を纏い、重装の影が現れる。

漆黒の鎧をまとい、巨大な盾を構えた魔神。

その視線は獲物を選ぶように冷たく、空気そのものを圧し潰す。


「リリアナ、ソフィア! 下がって!」

アレンが叫び、二人は素早く後方へ退いた。


アレンは剣を構え、カイルは手にした《雷鳴の槍》を握り締める。

「やるしかねえな」

「……ああ!」


魔神は防御特化型らしく、何度斬りかかっても分厚い盾に阻まれる。

アレンが剣を叩きつけるたび、火花が散るだけだった。


「くそ、硬すぎる!」

「任せろ!」

カイルが雷鳴の槍を構える。槍先に稲光が収束し──雷撃と共に盾を貫いた。


「グオオオオオッ!」

魔神の咆哮が響き渡り、全身の鎧が軋む。

雷属性が明らかに弱点だった。

アレンが一瞬の隙を突き、剣を振り抜く。


轟音と共に魔神は崩れ落ち、残されたのは禍々しい気配を纏った大盾だけだった。


「……やったな」

アレンは息を整えつつ、その盾を拾い上げる。


地上に戻る道すがら、リリアナが珍しく嬉しそうに笑った。

「今回で“三つの依頼”が一気に進んだわね。七大角獣の角、八種の神器の槍、そして十六魔神の討伐!」


カイルは得意げに胸を張る。

「全部、俺のおかげだな!」

「何言ってんのよ!」リリアナがすかさずツッコミを入れる。

ソフィアはくすくす笑いながら、「でもカイルさん、本当に頼もしかったですよ」と優しく言った。


そんな中、アレンがさらりと口を開く。

「これだけ進んだんだ。……なら、もう少し依頼を受けてもいいよな」


「「「ダメ!!!」」」


三人の声が重なり、アレンは思わず苦笑した。


こうして彼らは、また一歩大陸の伝説に足を踏み込んでいくのだった。



王都に戻ったアレンたちは、まず冒険者ギルドへ向かった。

目的はもちろん、《十六魔神》討伐の報告だ。


受付に知らせると、すぐにギルド長本人が姿を現した。

「おお、戻ったか。無事で何よりだ」

労う言葉に、アレンたちは深々と頭を下げた。


「今回……魔神を一体、倒しました」

アレンが取り出したのは、禍々しい気配を放つ黒盾だった。


ギルド長は一瞬だけ目を見開き、そして大きくうなずいた。

「確かに……《魔神の盾》か。よくぞここまでやってのけた」


横でカイルが胸を張る。

「これだけの大物を仕留めたんだ。俺たち、ランクアップ間違いなしだろ?」


だがギルド長は苦笑して首を振った。

「残念だが……魔神討伐は“教会”からの直接依頼だ。ギルドを通していない以上、ランクアップのポイントにはならん」


「なっ……マジかよ!」

カイルはガックリと肩を落とす。


「じゃ、じゃあ……神器は? それもダメなのか?」


ギルド長の表情が変わった。

「……神器?」

アレンが頷き、《雷鳴の槍》を見せる。


その瞬間、ギルド長は立ち上がり、目を大きく見開いた。

「お前たち……神器を手に入れたというのか!」


場の空気が一気に張り詰める。

ギルド長は槍を凝視しながら、深く息を吐いた。

「神器探索は、確かにギルドが古くから掲げている依頼だ。だから対象にはなる。だが……本来はSランク冒険者が挑むべきものとされていた。故に、達成ポイントなど定められていない」


「……え、じゃあ俺たち損じゃね?」カイルが頭を抱える。

リリアナは呆れ顔で言った。

「本当にあんたって……損得勘定しかないの?」


ギルド長は真剣な口調に戻った。

「神器については、ギルドではなく王宮に直接報告せよ。……王家にとっても重大な意味を持つからな」


アレンは頷き、槍を抱え直す。

「わかりました。王宮に報告に行きます」

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