第13話 雷鳴を駆ける影
雷鳴の平原を進み続けて三日目。
ついに稲光の中で、あの漆黒の獣を再び見つけた。
「いた!」
アレンの指さす先で、サンダーロアの角が稲光を弾きながら跳ねている。
リリアナが短剣を握りしめた。
「今度は逃がさないわよ!」
アレンは素早く作戦を立てる。
「二手に分かれて挟み撃ちだ。俺とリリアナ、ソフィアで左から。カイルは右から回り込んで!」
カイルがにやりと笑う。
「了解! 突撃は俺の得意分野だからな!」
アレンは心の中で小さくつぶやいた。
(女性を危険には晒せない。リリアナとソフィアは俺が守る。……カイルなら、雷に2回くらい打たれても大丈夫だろ)
「おい、今なんか失礼なこと考えてなかったか!?」
「な、なんでもない!」
──挟撃開始。
アレンはサンダーロアの前に立ち塞がり、両サイドに土魔法で分厚い壁を展開した。
「これで逃げ場はない!」
獣が唸り声を上げ、突進。狙いはカイルの方だった。
「来たな!」
カイルは大剣を構えたが──次の瞬間、相手の速度を見て悟った。
「……無理だ、剣じゃ間に合わねぇ!」
大剣を捨て、両手を広げる。
「なら──素手でいく!」
稲妻の突進が迫る刹那、カイルはその角をがっしりと掴み取った。
衝撃で腕が痺れる。
「ぐっ……止まんねえっ!」
抑え込むことはできず、そのままの勢いで宙に浮き──サンダーロアの背に乗り上げてしまった。
「おいおいおい! 本当に rodeo かよ!?」
カイルの叫びが雷鳴に掻き消される。
サンダーロアは咆哮し、稲妻を撒き散らしながら平原を駆け抜ける。
アレン、リリアナ、ソフィアは慌てて追走した。
「ちょっ……どうすんのよこれ!」リリアナが顔を引きつらせる。
「追うしかない!」アレンが叫ぶ。
「アレン様、あれ……!」ソフィアが前方を指差した。
サンダーロアは疾走の果てに、地面に口を開けた巨大な洞窟へと飛び込んでいった。
「……あそこに巣があるのね」リリアナが呟く。
「よし、カイルを助けに行くぞ!」
雷鳴を背に、三人は暗い洞窟へと駆け込んだ。
サンダーロアが逃げ込んだ洞窟は思ったよりも狭く、稲妻を纏った巨体が暴れるたびに岩壁がきしみ、砂が降ってきた。
「ぐあっ……! 振り落とされる!」
カイルが必死に角にしがみつき、体を振り回されている。
「カイル!」
アレンは即座に判断し、両手をかざす。
「──《氷縛》!」
青白い魔力が奔り、サンダーロアの足元に分厚い氷が形成される。獣は動きを封じられ、咆哮を上げて暴れ狂った。
「次は──雷だ!」
アレンが雷撃を放ち、カイルごとサンダーロアの身体を一瞬で痺れさせる。
「ぎゃあああっ!? てめぇアレン! 俺まで痺れてるだろ!」
「ごめん! 今しかないんだ!」
アレンは駆け寄り、刀を振り抜いた。
稲妻を帯びる角が、根元から鮮やかに切り落とされる。
サンダーロアは苦悶の咆哮をあげたが、命を奪うことはしなかった。
アレンが氷を溶かすと、傷ついた獣は稲妻を撒き散らしながら洞窟の外へ逃げ去っていった。
「ふぅ……これで一つ目の角、確保だな」
アレンが息を吐き、切り落とした“稲妻型の角”を掲げる。
「お、おい……次からは俺を痺れさせる作戦はナシだぞ……」
カイルはまだ体を震わせながら抗議した。
リリアナは肩をすくめ、冷ややかに言った。
「生きてるだけ感謝しなさいよ」
──帰ろうとした、その時。
「……待ってください」
ソフィアが杖を掲げ、洞窟の奥をじっと見つめた。
「奥に……何か、あります」
慎重に進むと、岩の祭壇のような場所に、一本の槍が突き立てられていた。
鋭い刃先に雷光が走り、周囲の空気を震わせる。
「……これって……」アレンが息を呑む。
セレーネ王女が言っていた「八種の神器」のひとつ──雷鳴の槍。
「すげえ……」
カイルがふらつきながらも槍を手に取った。
その瞬間、雷鳴が洞窟を震わせ、槍がカイルの手に馴染むように光を放つ。
「軽い……まるで俺の腕と一体になったみたいだ」
試しに素振りをすると、稲妻が走り、轟音が響いた。
その衝撃で奥の岩壁が砕け、土煙が広がる。
崩れた壁の向こうからは、どこか不穏な気配が漂ってきた。
リリアナが顔をしかめる。
「……ちょっと。角と神器だけじゃなくて、まだ何かあるってこと?」
アレンは剣を握り直し、緊張の面持ちで奥を見つめた。
洞窟の奥に潜む“何か”が、ゆっくりと目を覚まそうとしていた。
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