第16話 王女、仲間入り
謁見の場を終えて、アレンたちが退出しようとしたとき。
セレーネ王女がアレンの隣に並び、凛とした声で告げた。
「婚約者なのですから、残りの神器探しには当然、私も同行します」
「えっ……」
アレンが戸惑う横で、リリアナがすかさず口を挟んだ。
「ちょっと待ってください。うちのパーティーは神器だけじゃなく、猫探しや下水掃除までやってるのよ? 王女様に耐えられるかしら」
セレーネは一瞬きょとんとしたが、すぐに微笑んだ。
「面白いじゃない。何でもやってみせますわ」
「……ほんとに言ったな」
リリアナは腕を組んで深くため息をついた。
アレンは苦笑しつつも、内心では妙に前向きだった。
「でも王女が一緒なら、俺たちだけじゃ通れない場所にも入れるだろ。悪いことじゃないと思う」
「……好きにすれば」
リリアナは肩をすくめ、それ以上は言わなかった。
こうして、セレーネ王女が正式にパーティーへ加わることになった。
◇
「で、次の依頼は何ですの?」
胸を張って尋ねるセレーネに、アレンは爽やかな笑顔で答えた。
「王宮の塀の掃除」
「…………え?」
一瞬、沈黙。
リリアナは冷ややかな視線を向け、カイルは腹を抱えて笑い転げた。
ソフィアは気の毒そうに視線を逸らす。
セレーネはこめかみを押さえ、深いため息をついた。
「……まさか、自分の家の掃除をさせられるなんて」
「ほら、言ったでしょう? うちは何でも屋みたいなものだって」
リリアナが皮肉っぽく言う。
「……心得ましたわ」
セレーネはきっぱりと頷き、杖を構えてみせた。
「この身に誓って、塀の汚れすら見逃しません!」
「いや、それは大げさすぎるから!」
アレンが慌てて突っ込みを入れるのだった。
◇
アレンたちは王宮の門前で、依頼のことを衛兵に告げた。
「王宮の塀の掃除の依頼を受けて来ました!」
衛兵は呆気にとられた顔をし、ちらりとセレーネを見やる。
「セ、セレーネ様!? あなたはなさらなくても……」
セレーネは真剣な表情で首を振った。
「いいえ。私は彼らの仲間です。パーティーである以上、共に任務を果たします」
衛兵は困惑しながらも掃除道具を渡すしかなかった。
「……畏まりました」
こうして王女までもが箒と雑巾を手に、パーティーは塀沿いに散らばって掃除を始めた。
「……まさか王女が雑巾を絞る日が来るとはな」
カイルがぼやきながらブラシをこする。
アレンは苦笑しつつ隣の苔を削ぎ落としていた。
「こういうのも経験だよ」
「経験のベクトルが完全に間違ってるでしょ」リリアナが呆れ声を上げる。
そのときだった。
ソフィアがふと顔を上げ、異変に気づく。
「……あれ?」
塀の影から、黒い影が滑り出てセレーネの背後に迫った。
布で口を塞ぎ、腕を絡めて引きずり込む。
「セレーネ様っ!」
ソフィアの叫び声に、アレンとカイルが反応する。
「行くぞ、カイル!」
「おう!」
二人は箒と雑巾を投げ捨て、影を追って駆け出した。
頼れるのはアレンの剣とカイルの大剣、そして己の脚力のみ。
「絶対に追いつくぞ!」
アレンの声が、落ち着いた午後の王宮を切り裂いた。
こうして、王女誘拐をめぐる緊迫の追走劇が幕を開けた。
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