第5章 『黒百合の罪 ー 文の記し』


キラキラ輝く妖精の粉に包まれ、

お母さんは空へ消えていった。


けれど、そこにはお日様のような温もりと、

カモミールの香りだけが残っていた。



「もっとお母さんとお話したかったな……」



『愛』なんて知らなくて、

それを求めて駆けてたはずなのに、

こんなタイミングで知るとは思わなかった。


 

あーあ…もっと早く気づいていればな…



でも、頬を撫でる涙は温かかった。



「……最期にベッドくらい、

綺麗にしてやったら?」


「…うん」



ノクタと一緒にベッドを整えていたら、

枕の下から手紙が数枚出てきた。



「誰からのだろ?おばあちゃんからかな…?」



見てみるとそこには、お母さんの名前と

『セリオス=アトリオン』という名前が

書いてあった。



「…もしかしたら、

ルナの父親の名前なんじゃ?」



その言葉に、胸の奥が小さく震えたのを感じた。



黒百合の香りが渦巻く。

 

 

「読んでもいいかな」



ノクタが静かに頷き、アタシは手紙を開いた。



「……なんて書いてあった?」


「お父さん…

『セリオス=アトリオン』の居場所」



そしてこれは……



「そうだったんだね。お母さん…」



黒百合とカモミールの香りが、

複雑に混ざり合う。



「『黒百合の城』、そこにお父さんがいる」



お母さんがいたベッドに、

好きだったカモミールの花と、

ずっと握りしめていた指輪をそっと置く。


 

……ありがとうお母さん。

その気持ちは、絶対伝えるからね。


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